『襲名』
坂井千秋
(『庭』)
兄の影であることが、私の支えだった。尊敬する兄は今日、陶芸家である父から「十三代目相馬凌雲」の名を襲名する。
『鬼』
いいじま修次
(『金太郎』『桃太郎』)
桃から産まれた桃太郎は、悪さをする鬼達をこらしめ、人々が安心して暮らせるようにしましたとさ。めでたしめでたし。――からの少し後、なぜかもう一度鬼退治へと向かう物語です。
『くつしたをはいたネコ』
七海茜
(『長靴をはいた猫』)
父が亡くなり、父が飼っていた猫を引き取ることになった主人公の「俺」。まるでくつしたを履いているような模様をした茶トラのミソは、大小様々な幸運を運んでくるのだった。
『この道』
山本
(『この道』)
佳代は休暇を利用しフィンランドへ旅行に来ていた。現地の日本語ツアーに参加したその日、佳代はガイドの男性と後部座席に乗る女性、その子どもの女の子と一緒になる。そして車で移動しながら、窓から見える風景にいつか見た印象を受ける。
『ピノキオの鼻のような由真のテイル』
もりまりこ
(『ピノキオの冒険』)
わたしの友達は唯一由真だけだといっていい。由真は透明な氷の欠片が喉の奥にすんでいるような、いわゆるアニメ声だった。国語の授業の時そんな声で朗読をしていたら、急に由真のスカートのお尻あたりにもふもふした尻尾が生えてくるのが分かった。それがみえているのはどうやらわたしだけみたいで。
『鷺』
義若ユウスケ
(『雪女』)
寒い冬。雪の山村で女が男を殺す話。
『バイ菌』
N
(『外科室』)
妻と子供と三人の、幸せと思える暮らしを築いた男が思い出す、とあるむかしの記憶。その記憶は、語られることは無く、今後思い出されることも無く、かといって完全に消えるわけでも無い。
『くずかごの中の正しさ』
太田千莉
(『走れメロス』)
村の牧人であるメロスは気が付くと街と草原が混じったような異様な空間に居た。そこは主人公になれなかったメロスの集まる、捨てられた者たちの空間だった。自分の人生は間違いである。そう告げられたメロスは、正しさとは何かを考える。
『月影』
和織
(『竹取物語』『内部への月影』)
七歳のときの事故のトラウマのせいで、直に月を見ると意識を失ってしまう光里(みつり)。でもそのトラウマの中身と、事故以前の自分を、彼女は知らない。十六歳になった日、人生に対する諦めが、光里の意識を月へ向かわせ、あの日の記憶が開く。