小説

『鬼』いいじま修次(『金太郎』『桃太郎』)

 太陽の光が眩しい海。
 先輩は砂浜で寝転び、後輩は上司の向かって行った方向を落ち着かない様子で見ていた。

「先輩……私、様子を見て来ますよ。戻って来るのがちょっと遅いですよね……」
「いいよ、ほっとけば。上手く行かなかった方が、俺らもラッキーだしな」
「そんな……」
「あーあ、やってらんねえ。俺もバックレてえなあ……」
「あ……いなくなった理由ですけど、何て説明しましょうか? 具合が悪くなって帰ったとか?」
「バックレたでいいよ」
「それで大丈夫ですかね?」
「ダメだろうな。捕まって、この世とオサラバかもよ」
「え……怒るとそんなに怖いのですか?」
「これから行くトコよりあいつの方が怖いよ。頭無くてやたら強いっていう最悪のタイプだから。――しかしホント頭無いよな。舟が必要な事ぐらい最初から分かんなかったのかね……」
「――あ、先輩起きて下さい。戻って来たみたいですよ」
「チェッ……。――何だあいつ、舟担いで笑ってやがる……」

 重い小舟を頭上に楽々と担ぎ上げ、上司はニコニコと笑いながら走って来ると、その小舟を足元へ降ろした。

「待たせたな、二刀流の小次郎! へへへ、漁師にダンゴ一つやって借りて来た。渋ってたけど、人助けに力を貸すのは当たり前だもんな。――あれ? キジはどこ行った?」
「あいつならとっくにバックレ……」
「あーっ! あのあのあのですね、先に行って偵察しておくそうです! それであの、みんなで一緒にいるのは危険だから、この先ずっと離れた所から見張るって言ってました!」
「ふーん。そうなの、サル?」
「さあ……俺は聞いてなかったけど、イヌの言った通りなんじゃないスか?」
「そっか。ならいいんだ。もし逃げたなら、鬼退治の前にキジ狩りしないとだもんな。鳥鍋にすると旨えんだよなあ……いけね、余分を言ったら腹へっちまう。鬼やっつけるまではダンゴでガマンしないとな。――よっしゃ。じゃあ行くか!」

 上司はそう言って小舟をヒョイと抱え上げると、海に向かって走って行った。

「知らねーぞ、あんなウソ言って。バレたらお前がヤバイぜ」
「はい……でもキジさんの事を思うと……」

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