「全くイヌってのはお優しいよな。そんなんじゃロクな死に方しねえぞ。――ま、俺も鬼ヶ島着いたら適当にバックレるからよ、その時は上手く言っといてくれよな」
「そんな……私とキジさんはここへ来る途中で声をかけられただけですが、先輩は鬼退治をする為に自らお供になったのですよね?」
「ちげーよ。あいつ頭――」
波打ち際に小舟を降ろした上司が、大きな声を上げた。
「おーい、何やってんだー?」
イヌは上司の名を呼び、返事をした。
「はーい! 今行きます、金太郎さーん! ――小次郎先輩、とにかく行きましょう」
イヌとサルは、軽く駆け出し、話を続けた。
「あいつ頭無いから、鬼退治といえばサルって事で無理やり連れて来られたんだよ。俺よりクマにすりゃいいのによ……それから俺の名前は小次郎じゃねえから」
「え? でもさっきそう呼ばれていませんでした?」
「名前のせいだか何だか分かんねえけど、金太郎って人の真似ばっかするんだよ。鬼退治もそうだしな。有名になりたいなら、こんな事するより物真似芸人にでもなった方が向いてるんじゃねえかな……」
一行は小舟に乗り込み、鬼ヶ島へ向かって出発をした。
金太郎は、同い年ぐらいの少年が鬼退治をして有名になった事を羨み、自分も鬼退治をして有名になろうと、サルをお供にあしがら山を出発し、現在に至ったのである。
「でも金太郎さん、鬼は先日改心をしたのですよね?」
「へへへ、オラはそれが嘘だと睨んでる。悪い鬼どもが心を変えるなんて信じねえ。今頃は桃の字に復讐する為に、体鍛えたり武器集めたりしてるはずだ。それをオラがやっつければ、本当に鬼退治をしたのは、この金太郎様になるわけだ。――オラのすべてをこの拳にかけるっ! オラ、ワクワクすっぞっ!」
小舟は沖へ沖へと進み続け、やがて、鬼ヶ島が見えて来た。