『Obligat』
木江恭
(『安珍・清姫伝説』)
認知症の夫の介護を娘に任せ、清子はオルガンコンサートの行われる珍しい寺を訪れる。パイプオルガンの音色は、清子が心の底に閉じ込めていた淡い恋を蘇らせた。帰ってくるという約束を果たしてくれなかった、今はもう顔さえも思い出すことのできない彼の記憶を。
『キオ』
大前粟生
(『ピノキオ』)
内気な男の子が公園の砂場で知らないおじいさんに出会う。元人形職人のおじいさんはひとりぼっちの男の子を励まそうとして接するが、母親がそれを拒む。別の日に、おじいさんは男の子に人形の作り方を教えようとするが、今度は父親にきつく断られ、おじいさんは公園を出ていく。ある日、男の子が死ぬ。
『伝説のホスト』
植木天洋
(『口裂け女』『カシマレイコ』『トイレの花子さん』『壁女』『メリーさんの電話』)
新宿歌舞伎町、眠らない町。真夜中に足音を響かせて歩く伝説のカリスマ・ホスト零〈レイ〉。彼は、新宿の片隅に潜む女性の魑魅魍魎をカリスマ・ホストの華麗なテクニックと心のこもった言葉でどんどん成仏させていく。その女、口説き”落とし”ます。
『境界枠』
和織
(リルケ『窓』)
テーブルを片づけながら、外を見るフリをして、五角形の窓の中にいる、小さな蘭子さんを盗み見た。空は曇っている。ここにいるときは、天気は悪い方がいい。外が暗い方が、店内にいる彼女が、そこに濃く映るから。これは、誰にも言ったことのない事実だ。僕の中にしかない事実。
『焦げ茶のバクダン』
守田一朗
(『檸檬』)
2月14日、運命の日。僕はソレを受け取ることができるだろうか。
厳しい現実から目を逸らすように思考を加速させていく。ほら、視界には麗しい乙女がいる。そのような乙女が今自分の元へ来ているのだ――という錯覚を起こそうと努める。なんのことはない、健全な青少年の妄想と現実の二重写しだ。
『青い月』
冬月木古
(『おむすびころりん』『鼠浄土』)
「猛烈に暑い日、散歩に出たわたしは、公園のグラウンドで行われていたラグビーの試合を観ていた。暑さでゆらゆらかげろうのように選手が走っていた。カミサンの作ってくれたおむすびを食べ始めるが、考え事をしているうちに落としてしまうと……」
『三万年目』
清水その字
(古典落語『百年目』)
野良猫のハナグロは二十年生きて、妖怪猫又になった。修行を積んで人間に化けることもできるようになったが、名前の由来である顔の模様が消せない。そんな中、外国から来た猫妖怪・マカが彼に声をかける。どうも普通の猫又ではなさそうな彼女に振り回され、一緒に町へ出かけることになったハナグロだが……
『ウェンディとネバーランド』
あやもとなつか
(『ハメルーンの笛吹き』『ピーターパン』)
私には両親がいない。私はおじさんとおばさん、従姉妹と弟と一緒に幸せに暮らしていた。しかし、私達の住む街にネズミが大量発生して、私はネバーランドに辿りつく。子どもの為の国、ネバーランドで出会った少年ピーター。そして、私は本当の気持ちに気づく。
『シンデレラの継母』
泉谷幸子
(『シンデレラ』)
彼女が後妻としてその屋敷にやってきたのは、シンデレラが8歳の時であった。彼女はシンデレラの美しさと聡明さ、可愛らしさに打たれる。反対に自分の連れ子姉妹は酷いもので、猛烈な引け目を感じるのであった……。