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『きっずハンド』黒藪千代

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「貴一くんも練習するのか?」
「おぉ、そうだ! お互い頑張ろうなっ!」
 拓也の意気込みに気圧されるような顔で小さな自転車にまたがっている貴一くんはやる気のない表情で俯いていた。あの時の俺みたいだと思うと何だか可哀想に見えた。

「いいか、幸太郎、真っ直ぐ前を見て思いっきりペダルを漕ぐん!パパが後ろを持っていてくれるから絶対に倒れない!だから思いっきり漕ぐんだぞ」
 父は、俺を差し置いて幸太郎の目線にしゃがみこみ(おじいちゃんが)ではなく(パパが)と力強く言った。
「えっ、おじいちゃんが教えてくれるんじゃなかったの」
 さっきまでやる気に満ちた顔をしていた幸太郎が心細げな表情を浮かべる。
「おじいちゃんよりパパの方が力が強いから!安心だぞ」
 そんな事、絶対思ってないだろうと思える父の言葉に俺は少々狼狽える。
「ほれっ、洋一ここ持って!走れ!」
 久しぶりに俺の名前を口にした父は、小学校一年生の時の夜の公園で見た父の顔をしていた。
 かくして、ベンチに座って俺と幸太郎の奮闘する姿を眺めている父を横目に俺は小さな自転車の後ろを掴んで中腰のまま幾度も走っては転んだ。
 幸太郎は転んでも泣かず、すぐに立ち上がって自転車を起こす。(パパ行くよ!)と気合を入れてペダルを踏み込む。それでもやっぱり数メートル走って俺の足が追いつかなくなり手が離れるとバランスを崩して倒れてしまう。何十回も同じ事の繰り返し。俺の足と腰はよろよろともつれ、ついに派手に前のめりに転倒した。膝に大きな擦り傷が出来て血が滲んでいる。
 もはやこれまでかと座り込み大きくため息を付くと、自転車を押しながら少し先にいた幸太郎が近づいて来た。
「パパ、大丈夫?今日はもうやめようか?また来週でもいいよ?」
 心配そうに俺を覗き込む幸太郎の膝は擦りむいて血が滲んでいた。
 俺の中にあの頃の俺が蘇る。鬼のような顔をした父が仁王立ちで俺を怒鳴りつけたあの時、父の手の甲や肘に血が滲む擦り傷がいくつもあった事を思い出した。
 その時、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「べんちゃ~ん頑張れ~!」
 声の方を振り向くと、和菓子屋ののんちゃんや定食屋の久志も。それぞれの子供をつれた沢山の人だかりが父の座るベンチに群がっていた。拓也のいる方を見ると小さな自転車の後ろを持って必死に走っている。
 運動神経抜群の拓也が、無様に前のめりに転んでは立ち上がっている。お互い視線が合うと拓也は砂埃を舞い上げてガッツポーズをするように大きく右手を上げ再び自転車の後ろで中腰になった。
 説明の出来ない何とも熱い気持ちがこみ上げ、俺は諦めたかった自分を振り払った。
「大丈夫だ!よしっ、幸太郎もうちょっと頑張ろう!」

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