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『きっずハンド』黒藪千代

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(山下、お前凄いよ)と心の中でひとりごちてベンチに腰掛けほっと一息ついた。ちなみに、シールの色に何か意図はあるのかと山下に聞いたけれど(特に意味はない)ときっぱり言い捨てた。あの時の山下のドヤ顔を今は両手を上げて絶賛したい気持ちでいっぱいだ。
 2周3周と自転車を走らせる幸太郎を目で追いながらそのつど腕をかざしてアプリの中の黄色いラインを確認する。幸太郎が手を振りながら4周目に入った所で俺は安心感を覚えベンチに背中を預け今度こそ気持ちを緩めてリラックスし、5周目の幸太郎に手を振った辺りから眠気に襲われウトウトし始めた。
(はっ!)と気づいた時、自分がすっかり眠り込んでいた事を意識し慌てて腕時計を付けた左腕を大きく持ち上げ公園内を見渡した。腕時計型のアプリは反応を示さずついさっきまで伸びていた黄色いラインは画面に表示されない。一瞬でバクつく心臓に手を当ててベンチから立ち上がると真後ろから(パパ)と言う幸太郎の声が聞こえた。慌てて振り返るとベンチの背もたれの後ろでしゃがみこんだ幸太郎がふてくされた目で俺を見ていた。
「おぉ、どうした?」
 バクつく心臓に沈まれと命令したい気持ちで呼吸を整え何事もなかったかのように幸太郎に声をかけた。
「パパ、外したい」
 経緯と主語と述語がない幼稚園児の会話の意図を汲み取る事が難しいという事を改めて頭の中で考えながら何を俺に訴えているのかを考えた。
「補助輪?自転車のか?」
「ひろくんがあっちで自転車に乗ってたの。だから幸ちゃんもコレ外す!」
 どうやら幼稚園で一緒のひろくんが補助輪なしの自転車に乗っているという事が推測出来た。
「そうかぁ・・・」
 曖昧な返答をする俺に幸太郎は立ち上がって言った。
「ひろくんがお父さんと練習してたの!だから幸ちゃんも!」
「そ、そうだな、練習するか」
 俺は明らかに動揺した。
 自転車から補助輪を外す。その先の事は父にまだ聞いていなかった。
 取り敢えず、工具がない事を五歳の子供に納得させてその日は何とか免れた。
 翌日、ワンボックスの自家用車に自転車を乗せ実家のある商店街を目指した。すっかり腰が治った父に昨夜電話で相談したところ自転車を持ってこっちに来いと、相変わらずの有無を言わせぬ物言いで電話を切られた。
 幸太郎は口には出さないが、俺の運動神経の悪さを薄々感じている。おじいちゃんが補助輪を外して一緒に練習してくれると言うと両手を上げて喜んだ。

 公園に着くと、何故だか酒屋の拓也が息子と一緒に真新しい自転車を携えて待っていた。
「べんちゃん、勝負だ!」

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