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『きっずハンド』黒藪千代

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 取り立てて会いたいと思っていなかった相手に思いがけず再開する事に戸惑った。幸太郎は同じ年ぐらいの男の子と何やら密談するような格好で地べたに座り込んで笑っている。
「あぁ、俺の息子!貴一だ」幸太郎と並んで地べたに座り込んでいる男の子の頭をちょこんと小突いてから拓也が言った。べんちゃんのとこと同い年で何か嬉しいよとはにかむ。
「あぁ、そうなんだ」
 嬉しいよと言われても困るなぁと思うとそれ以上の会話が繋げなかった。
 皆に頭を下げて父に肩を貸すと、幸太郎が真新しい補助輪の付いた自転車にまたがっていた。
「さっきおじいちゃんが買ってくれた!」
 驚きと戸惑いの入り混じった顔で見つめる俺に幸太郎は満面の笑みで答える。
「あぁ、そうか、じゃぁ、車のところまで乗っていけるか?」
「うんっ!」
 力強く頷く幸太郎を横目で見ながら、父を抱えるようにして歩きはじめた。
「勝手にすまんな」
 足を一歩前に踏み込む度に小さく痛みを堪える声を漏らす父がボソリと言う。
「あぁ、いや、ありがとう。」
「腰が治ったら、一緒に練習しようってさっき幸太郎と約束したから、おまえは心配せんでいいぞ」
 俯きながら遠慮がちに言う父に、俺の感情が読み取られている事を感じる。

 小学校一年生の秋だった。商店街の同級生の中で俺だけがまだ補助輪を付けて自転車に乗っていた。ある日の夜、店を閉めた父が裏口から外に出て何かを始めた。母にご飯にするからお父さん呼んで来なさいと言われ、裏口から外に出ると父は俺の自転車から補助輪を外していた。
「明日の夜から練習するぞ!いいな!」
 有無を言わせない父の強さに怖気づいて言葉を返す事も出来ずにいた俺。
 補助輪を外して練習を始めてから実に、1ヶ月の月日がかかった。何度も転び、何度も怒鳴られ。肘も膝も擦り傷だらけで、あの時ほど父の事が嫌いだと思った事はなかった。それ以来自転車には乗れるようになったけれど、俺は敢えて進んで乗る事はしなかった。しかし、大人になってから気づいた。
 あの時自転車に乗れていなかったら、きっと何かの時に俺は赤面するような恥をかいていたのかもと。
 だから、今は感謝している。けれどその気持ちを口にした事はなかった。
「あぁ、いや、でも俺が教えるよ」
「大丈夫だ、こんな腰すぐに治る!それに、何だ、幸太郎にはちゃんとやさしく教えるから、心配すんなっ」
 父はあの時、俺に嫌われていた事を知っていたのか。

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