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『きっずハンド』黒藪千代

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「じゃぁ、どうやって教えるのか、俺に教えてくれよ!」
「何だ?教え方を教えるのか?」
 腰をさすりながら肩ごしに俺を見る父に、自分でも変な事を言ったなぁと自覚しながら(そうだよ)と言うと、変な奴だなぁと笑う父は、さっき程痛そうな顔をしていなかった。
 父からの教えは二つだった。
 初めはまず自転車に慣れる事が大事だから、補助輪のついたまま、とにかく沢山走らせる事。そして本人が補助輪を外したいと言い出すまで外さない事。
 二つ目の教えを言った後に、父はほんの少しバツの悪そうな顔をして(まぁ例外もあるがな)と言うと痛む腰を摩って横になった。

 あれから約三ヶ月、幸太郎は未だ補助輪を外したいとは言わない。
補助輪付きの自転車を近所の公園に持ち込み、公園の周りに配置している一周200メートル程のサイクリングコースを ぐるぐると廻った。子供が漕ぐ補助輪付き自転車は考えていたよりもスピードが早く、俺はその自転車から離れないように速歩ならぬ小走り状態で付いて行かなければならなかった。
 ゆっくり身心を休める為の休日に筋肉痛になる程の、しかも苦手な運動に取り組まなくてはならない。家族は大切だけど何ともやるせない気持ちになってしまうのが正直なところだ。

 妻が口元に含ませた強さに気圧されて母親が仕事に行く事を一旦は諦めた幸太郎が、再び玄関でぐずる。引き剥がされまいと必死にしがみつく。
 俺は、ただ黙って妻が幸太郎を再び抱きしめ口元に強さを漂わせる時間を目を逸らして待つ。
 妻と幸太郎はこんなにも強い絆で結ばれている。仕事に行く為に子供の意志を尊重してくれない母親でも幸太郎は母親が一番好きなのだと改めて思い知らされるこの時間を俺は直視することが出来なかった。
 小さな身体の幸太郎が全力で振り絞った抵抗も虚しく、妻はあっさり出かけて行った。玄関のドアがガチャンと音を立てて締まると幸太郎はうなだれたままリビングへ戻る。その後ろ姿を見ると何とも切ない気持ちになる。それは幸太郎の気持ちを思っての切なさなのか、無力な自分自信の切なさなのかは考えたくはないところだ。
 しばらくぼんやりとテレビを見ていた幸太郎が、朝のアニメ番組が終わるとテレビの前から立ち上がった。(来るぞ)俺の中の俺が合図すると幸太郎は妻が用意した水筒を持ってソファに座る俺の前で仁王立ちした。
「パパ、公園!」
 今日も強気だな。妻によく似た強さを含んだ口元をキュッと結んで俺を見る。
「よしっ!公園行くぞ!」
「あれ?今日はパパも公園行きたかったの?」

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