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『きっずハンド』黒藪千代

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 現役を退き、暇を持て余す父は、幸太郎と公園に出かける事をとても喜んでくれた。外遊びの苦手な俺にとっても願ったりの環境が出来上がったと胸をなでおろしていたが、事はそんなに上手くは行かなかった。

「おぉ、悪いが誰か車で迎えを頼む」
 父と幸太郎が公園に出かけて二時間程経った頃だった。痛みを堪える父の声に、縁側で眠りかけていた俺はスマホを握り締めて起き上がった。
「どうしたんだよ」
「いやぁ~すまん腰だ、腰やっちまったみたいだ」
 どうやら父がぎっくり腰になったようだった。父には申し訳ないが、幸太郎が怪我をした訳ではないとわかって俺はちょっとほっとしていた。
 弟に事情を説明して店の軽トラックを走らせた。痛みに耐えながら父は何故か(軽トラで来てくれ)と念を押すように言った。軽トラの荷台に自分が乗り込むつもりか?などとちょっと理解に苦しみながら公園の駐車場に着くと幸太郎がすぐに駆け寄って来た。
「パパっ!おじいちゃんが大変だよ、早く!」
 俺の手に幸太郎の手がふれ、ぎゅっと握り締める。小さな手のひらはうっすらと汗をかいていた。
 大人を頼ってしか生きていく事の出来ない五歳の息子が、祖父の一大事に必死で立ち向かおうとしている。たかがぎっくり腰とほっとしていた自分が恥かしくなる。後ろめたい気持ちをごまかすように幸太郎の手を強く握って父の元へと走った。
 うずくまるような体制でベンチに捕まっている父の傍に数人の人が寄り添っている。すみませんと頭を下げながら近づくと小さい頃の面影を残した顔見知りばかりだった。
「べんちゃん~久しぶりだなぁ」
(べんちゃん)俺の子供の頃のあだ名だ。俺の嫌いな、俺のあだ名。理由は至極簡単だ。勉強ばかりしていたから(べんちゃん)。
 大人になってからあまり実家に寄り付かなかったのはこのあだ名で呼ばれる事が嫌だったせいもある。
 声をかけて来たのは隣の酒屋の同級生。拓也だった。
「何だよ、帰って来るなら連絡ぐらいよこせよ!」
 柔道をしていた拓也は相変わらずガキ大将の雰囲気を漂わせている。
「あぁ、そうだな」
「ちょっと、思い出話しは後で!おじさん早く連れて帰ってあげなきゃ」
 抱っこ紐で赤ん坊を抱いたこの人も商店街の和菓子屋の娘でのんちゃんだ。

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