「混ぜて飲むんだな」
「あれひょっとしてオヤジ、ホッピー初めて? 」
「うん、実を言うと」と言って、米田課長もジョッキにホッピーを注いだ。そして、
「おっ、ハジけるねえ」そう言ってからグビッと飲んだ。
「おっ、いいねえ。ホップがきいてるよポップが!」ホップホップとステップジャンプしそうにホップを二度言った。
「やっぱポップだよホップ」また二度言って一気に飲み干し、ハッピーとなった。
「将太、これホッピーだいぶ余ったけど焼酎ロックだけ頼めるのか? 」
「ああもちろん。ナカって言って頼めるよ。まあ他にもいろいろ好きに飲めばいいんだよ。オヤジホッピーは自由だぜ」
「フリーダムなんだなホッピーは。よし気にいった! 」と米田課長ずいぶんホッピーがお気に召したもようである。
イネサワ市役所会議室。
「ところで植木君、ホッピーはじつにいいねえ大変気にいったよ、ホップがいいよホップが。君のおかげだ」
「そうですか課長それはよかった」
「課長! そんなことより市のピーアール事業は? イネッピーは? 」
「そうだよなあ愛葉君…… うん。まあ今日もこのあたりで」
と、ほとんど会議は進展せずにこの日も終わった。が、
「愛葉君はホッピーを飲むかね」
「僕はお酒自体つきあい程度しか飲みませんから特にホッピーとかなんとか言われても… 」
「そうか、だけどホッピーはいいぞ。是非今度つきあいで飲む機会があってホッピーがあったら飲んでみるがいい」
「松田さんは結構飲む口だったよね」
「ええ。でもホッピーは飲んだことないですよ」
「一度飲んでみるがいい。なんせいろいろ自由な飲み方ができる麦芽飲料なんだよ。ホッピーはフリーダムだ」
「フリーダムって課長、フフッ」
イネッピーはそっちのけに、課長は自分の気にいったホッピーのピーアールに励む。彼はもともと自分の気にいったものをやたらに人に宣伝する癖があったので、職場ばかりでなく会う人会う人に、ホッピーの話題をあげ、そしてすすめた。
さてこれまでSNSにはこれっぽちの興味もしめさなかった米田課長であるが、なにを思ったのか突然と興味を持ち、これまで興味のないゆえに知ることのなかったその辺りの知識を猛然と自身の脳にたくわえ、有名どころSNS数種のアカウントを取得し、始めた。
そう、ホッピーである。イネッピーでなくホッピーである。課長はまるで自分がホッピーをこの地にもっと広めるという使命を帯びたかのように、ホッピーに関する投稿をばんばんしまくるようになった。そして、
「ホッピー最高です!」「ホッピー万歳!」「ホッピーはフリーダム!」「ホッピーでハッピー!」なんて言葉をつらねつらねて、写真やら動画やら盛んに投稿する課長のSNSが、ふとあるとき酒井というホッピービバレッジ関係者の目にとまった。