「そうか愛知県の西部か。まだまだ開拓の余地がじゅうぶんにある地域だな。ほほうイネッピーなんてゆるキャラがあるんだ、なかなか可愛いじゃないか」
課長のホッピーに関する投稿のなかたまたまイネッピーの存在を知らせるものがあった。それを見て酒井がひとりつぶやいた。そして彼はホッピーとイネッピーとのコラボなんてどうだろうと思いついた。
「愛知県の西部にイネサワ市という所があってその市のマスコットキャラにイネッピーてのがあるんです。その市に暮らす人が我が社のホッピーを有難くもSNSで熱心に宣伝してくれているのを偶然発見しましてそこで知りました。なかなかに可愛いキャラクターでして我が社のホッピーとそのイネッピーとのちょっとしたコラボなんてどうかなと考えてます。それでもってその地方でそこまで高くないホッピーの知名度が今よりぐんと高まれば宜しいんじゃないかと」
ホッピービバレッジのとある企画会議にて酒井が発言した。彼の発言はその場の皆で検討され、ホッピーとイネッピーのコラボは宣伝事業の一環に値すると認められた。
それでとりあえず酒井は例のSNS投稿の主とコンタクトをとるべく、投稿にイイねをしコメントした。
〈この投稿を見てとてもホッピーに対する愛を感じました。〉
〈ありがとうございます。すっかり近頃ホッピーにはまってしまいまして(笑)〉と米田から返信。それから酒井は彼にメッセージを送った。
〈突然とすいません。実はわたくしホッピービバレッジの者であります。SNSにてホッピー関連の投稿をいろいろ検索していたところ米田さんの熱心な投稿を見つけまして、ホッピー関係者としてわたくし強く感銘を受けました。それから米田さんの投稿のなかでたまたま知ったイネッピーというイネサワ市のマスコットキャラクターが大変気にいりました。そこでわたくしホッピーとイネッピーとのコラボレーションなんて事を思いつき、それを会社の会議で提案したところ、その案が通り、これから動きだすところです。そこまで大きなプロジェクトではありませんが米田さんの投稿が機縁となっての事であり感謝しています。また何か動きがありましたらご報告いたします。 ホッピービバレッジ酒井〉
〈酒井さんからのメールを読んで大変驚いております。実はわたしイネサワ市役所の企画政策課に属する者なのです。まさかわたしの個人的趣味として勝手に宣伝していたホッピーが、本来わたしの仕事として宣伝すべき市のマスコットキャラクターイネッピーに関連してくるとはまったくもって有難き幸せです。それにちょうど今新規で何か市のピーアール事業を興そうとしている最中でもあります。その辺りと連関させてこちらも何かとそちらのプロジェクトにご協力できるだろう事と思います。と、かたい話はさておいていやはやご存知のとおり個人的にわたしホッピーをとっても気にいっております。そのホッピーの事業に関われるとは大変に光栄です。そのうえそれがイネッピーとのコラボであるとは顔がにんまりしてやみませんよ(笑) お互い手に手をとりあって事業を成功させようじゃありませんか。 イネサワ市企画政策課長 米田〉
その後まもなくふたりのあいだで細かいやりとりが始まった。
「手始めにピーアール動画を撮ろうと思います」と酒井。
「動画ですか… それはどうがなあ? なんてアハハ」課長、自分のくだらぬダジャレに自ら苦笑い。