「今日はみや子、休みなんだ」
一人で船を見送っていると、昨日声をかけてきた二人組のうちの一人が声をかけてきた。手に重そうな荷物を抱えていたので、手伝いますよと声をかけると、これくらい大丈夫だよと穏やかに言われた。
「あの……みゃーこさんはどれくらい前からここで働いているんですか?」
「え?うーん……三年くらい前からかなあ。ここに来たばっかりの時のみや子はさ、傷ついた野良猫みたいなかんじでさあ。今はだいぶ丸くなったんだよ。わんちゃんがきてからはもう、むしろ飼い犬みたいになったって皆笑ってるよ」
私は昨日のみゃーこさんの泣き顔を思い出して、なんだか胸が痛んだ。
「俺、一度振られてるんだよね、みや子に」
「え、そうなんですか」
「うん。泣きそうな顔して、ごめんなさいって。本当に辛そうだったなあ。まるで、自分が俺のことを好きになれたらどんなにいいだろうって、そう思ってるみたいだった」
「あの、どうしてこの街に来たかとかは、聞いてないんですか?」
「聞いたよ。ふられた日の夜、話してくれたんだ。俺の口からは言えないけど、でもその話聞いた時、俺、さらに好きになっちゃったな。芯の強い女の子だなって思ったんだ。笑われるかもしれないけどね」
私は何も言えなかった。みゃーこさんは明日からまた、私たちのあの小さな小屋にきてくれるだろうかと心配だった。お菓子を食べて、冗談を言って笑って、一緒に海を眺めて、船にむかって手を振って。
その日の夜、一人で戸締りをして、さあ帰ろうかと思っていると、「わんちゃん」と声が聞こえた。振り向くとみゃーこさんがいた。腕に栓の開いた瓶のお酒を二本抱えている。
「みゃーこさん、病欠じゃなかったんですか」
「病欠だよ。二日酔いだもん」
「それは病欠じゃありません」
言いながら、私は内心ほっとしていた。もう会えないんじゃないかと思っていたのだ。けれどまたこうして会えた。
「ねえ、海眺めながらこれ飲もうよ」
「弱いのに、よく飲みますねえ」
「ふふふ、これはね、魔法のお酒だから、ストレートで飲むと度数はそんなに高くないのだよ」
「よく言いますよ」
言いながら私は瓶に入ったままホッピーを飲んだ。東京にいた時、友人たちと飲みにいったおしゃれなバーのカクテルを思い浮かべながら私は、こういうのもアリだな、と笑った。
「あのね、私、昨日凄くずるいことをしました」
みゃーこさんが改まった口調でそんなことを言い出したので、私は驚いてしまった。
「お酒をいれて、冗談みたいに吐き出しちゃえって思ったの。ごめんなさい。ものすごく不誠実でした」
「いえ、そんな。私のほうこそ、驚いて、何も言えなくなって、すみませんでした」
「私、実は同性愛者なの」