「話のレベルも高いし、生活も余裕があるし、私には手の届かない男性だと思うって言った」
「えええええ!偉すぎる。そういうとこちゃんとするよね彩夏。それは男途切れたことないわけだわ」
「全然思ってないけどね。男途切れてますけどちょうど今」
「あ、今ね、今はね。でもそれなら相手も傷つかなくていいね」
「どうかなぁ、誰にも指摘されないまま、自分はイケてて余裕があって庶民の女じゃついてこれない、ドヤァ、みたいなままずっと行くのかも」
私が言うと、友里が、それはそれで先が楽しみ、と笑った。
「しばらく婚活お休みかなぁ」
「どしたの友里がそんなの珍しいね。懲りた?」
「懲りはしないし、絶対良い人はいると思うんだけど、婚活じゃないんだよなぁ、恋がしたいんだわ」
「ほう!恋活!」
「そうそれ。でもそうなると彩夏のほうが得意だよね」
「得意不得意の問題じゃなくない?」
「いやぁ絶対そうだよー彩夏は恋愛なら縁ありそうじゃん。なんで結婚に結びつかないのかはなはだ謎だが」
「はなはだって、ははは。あれよ、結婚願望が全くないとか、すんごい年上か年下かとか、あっち系じゃないけどほんの少し刺青入れちゃってるとか、いろいろあるけど、まぁ私も相手もダメなんでしょう、うん!」
「なにその結論~」
あぁ~っと友里が婚活に絶望的になってテーブルに顔を埋めた。
「少しの間何も気にせずゆっくり過ごしてみようよ」
「やめて~そういうカウンセリングみたいのやめて~弱気になる~」
大丈夫大丈夫、と友里の後頭部を撫でると、こうしちゃいられんっ!と頭をあげて、バッグからスマホを取り出した。
「なに?」
「次の婚活パーティーの予約」
「うわっ、私はもうしばらく行かないよ?」
「うー、わかった、じゃあせめて今日このあとこのまま飲みにいこう」
友里はテーブルの上の伝票をパっと掴んでスマホをバッグに放り入れる。まだ夕方4時なんですけど、と私が突っ込むと、その時間から飲むのが幸せなんじゃあー、と言ってレジへ向かった。
カフェを出ると、セミが鳴いていて、風がないからか空気が全部肌に貼りついて離れない。サウナみたいだな、と思いながら、昨日男が言ってた、こんな季節に生まれたから、というのを思い出した。彩る夏、夏みかん、桃、スイカ、ひまわり、水着、ノースリーブワンピース、いろんな色が季節を染めていく。どれも交じり合って灰色になってもおかしくないのに、ずっと鮮やか。
名前負けだな、と思って歩いていると、友里が、なんか懐かしいーと言って居酒屋の前で止まった。猛暑の本日はホッピーでハッピー、と手書きで書かれていた。