『点と線』
HORSE FROM GOURD
家族というつながりは厄介で疎ましい。どこまでも付いて回って、時々自分を縛る枷のように感じることすらある。雨の日、死んだ妹が目の前に現れた。母親と二人で暮らし、その暮らしももう間もなくわたしの大学進学と同時に終わろうとしている今、彼女は何をしに帰ってきたのだろう。
『待つ時間』
宮原はる
母親と二人で生きてきた17歳の陽(ヨウ)は周囲の同級生と比べたら家事が得意な、ちょっぴり珍しい男子高生。そんな大人びた陽の幸せについてのお話。
『娘が言い出したことに』
岸田奈歩
妻が亡くなり俺の様子を娘が見にくるが、娘と二人になると気まずい雰囲気が流れていた。だがあるとき娘はいつもと様子が違いそわそわしていた。もしかして結婚の報告でもするのではと構えていた俺に娘が言い出したことにより、娘との関係性に変化が起きる。
『月の夜に舞う香りの切なさは』
網野あずみ
世の中に馴染めず、道に迷い、苛ついていた若き彩音は、鬱屈した思いをダンスにぶつけていた。そんな彩音のダンスを変えたのは、大好きなおばあちゃんの言葉だった。おばあちゃんを前に、今までにない踊りを見せる彩音。でも、その時のおばあちゃんは……。
『息子の見解』
黒藪千代
38歳になった康介は妻とのすれ違いに悩んでいた。何を言っても怒る妻。穏やかな会話の糸口が見つけられずにいた。幼い頃離婚した両親の姿を思い出し自分も離婚してしまうのかと焦りを感じる。ついに妻が実家へ帰ってしまう。動揺する康介にアドバイスをくれたのは中学二年になる息子だった。
『キャンプファイアー』
東山はるか
スーパーの店長を務める浩一は、家族(妻の慶子・娘の綾香・息子の大輔)を誘って、家族キャンプを計画していた。ところが子どもたちは、それぞれ独自の予定を立ててしまっていた。日ごろの家庭内での態度に反省をせまられる浩一だが、妻の発案で子どもたちが彼の仕事ぶりを見ることになる。その結果、新しい家族の絆が生まれるのだった。
『宅配の気持ち』
狩屋江美
劇団の正団員になった遠藤亜紗見は、両親の反対を押し切り、東京に出てきた。東京での生活は忙しく、亜紗見は頻繁にかかってくる母からの連絡を無視した。しかし、月1回送られてくる宅配だけは受け取っていた。そんなある日、舞台稽古で演出家から罵声を浴びた亜紗見は、稽古場を飛び出してしまう。
『父親を待つ娘』
前田雅峰
ふらりと訪れた街から外れた原野の集落で、私は一人の少女に出会った。少女はいつ帰るとも知れない父親を、父親の好きだった廃止された軌道の停留所跡で待っているのだった。少女と話をする間に私は、此の少女の為に何かしてやれないかと考えるが、何も思い付かない。