9月期優秀作品
『点と線』HORSE FROM GOURD
雨ざらしになっている、もう使われていないバス停のポールの辺りから、何やらもやのようなものが立ち上っているなあと思って目を凝らしてみると、それはもう七年も前に死んでしまった妹だった。
「てんちゃん」
生前の呼び名で呼ぶと、妹は私の方にまっすぐ向き直った。
「名付けの順番を間違った」と、生前の妹を抱えながら母親がよく言っていた。
「あなたに点、という名前を先につけておけばよかった。それで、この子に線という名前を付けるの」
私をお腹に宿すにあたって、母親は相当苦労したらしい。だから、まさか二人目を身ごもるなんて思ってもいなかったという。
「やっぱり、先に点があって、それを線で結んでいくべきでしょう」
線と点という名前は、おそらく建築の仕事をしていた父親によるものだろう。直接聞いたことはないが、勝手にそう思っている。父親は母親が妹を身ごもった後、妹の顔を見る前に電車に轢かれて死んだ。家にはずっと父親が使っていたという図面台があって、それは机にしては大げさだし使いにくいものなのだけど、斜めにも出来る面をフラットにして、今は私の勉強机にしていた。
「せんちゃん、お母さん元気?」
「元気だよ」
このバス停はもう誰も使わない。この辺りは、小さな田んぼが幾つか続いているだけで、あとは雑木林しかない。乗車してくる人数が少なすぎて路線を外されてしまってから、ポールだけが忘れられたように残っている。結構不気味な場所で、夜になると不法投棄されたテレビの電源が映るという噂話があったりする。だから幽霊が出るくらいのことはあるのかもしれない。
「あの人病気しないんだよ。私なんかよりもずっと元気だよ」
妹は生前気に入っていた水玉模様のワンピースを着ている。妹の足元で、コンクリートの隙間から無理やり生えた蒲公英が、妹の身体を通り抜けた雨に濡れていた。
「お姉ちゃん、相変わらずだね」
妹はそう言って笑う。七年も前から、私はこうして憎まれ口を叩いていたということだろうか?
母親曰く、私の性格は父に似ているらしい。気難しくて偏屈。幼い私が色鉛筆を持ったまま腕を組み、眉間に皺を寄せている写真が残っていて、母親はことあるごとにそれを出してきてケラケラ笑う。
「悩んでいる姿が、図面引いてるお父さんにそっくりだわ」