十八歳の娘は、湯気に包まれながら、まるで子供のように泣きじゃくっている。
「ただいま!」
相変わらず元気いっぱいに美奈子は帰ってきた。
「おかえり!」和彦と由美は揃って出迎える。
「あら、二人ともずいぶん機嫌がいいじゃない。何かいいことでもあったの?」美奈子がわざとらしく言う。
進路指導があった日の夜、美奈子から電話があった。
『あの子、口ではお父さんに反対されたって関係ないみたいなこと言ってるけど、本当はお父さんにも認めてほしいのよ。』
「成績は厳しいみたいだけどな。」
『まあ、それは本人ががんばることであって、私たちはどうにもできないこと。親ができるのは、信じて応援してあげることだけよ。』電話口の美奈子の声は頼もしかった。
きっと美奈子はこうなることが分かっていたのだろう。でも、思い返すと、あの日から由美との関係は次第に良くなっていた。あの進路指導がなければ、お互い意地を張り続けていたかもしれない。そういう意味では、美奈子の長期出張は父娘関係に良い影響を与えたとも言える。
「プロジェクトはうまく行ったのか?」
外はまだ明るいが、ビールで乾杯しながら美奈子に聞いた。
「うまくいったよ。」美奈子はうまそうに飲み干す。
「でもね、自分の意見が通らないこともあったし、悔しいこともいっぱいあった。ただ、思いっきり戦えたよ。三か月間、私のやりたいようにさせてくれてありがとう。」
東京では美奈子なりにつらいこともあったのだろう。でもやっぱり美奈子は強い。自分など、由美のことで頭がいっぱいで、仕事はともかく、家事はほとんどまともにできなかった。由美がこの母親に憧れ、同じ道を歩みたいと思ったのも今なら理解できる。
「お疲れさま。」和彦はビールのおかわりを注いでやった。そして、「俺の方こそありがとう。」と心の中で呟いた。
今日の美奈子が作ったハンバーグは普段の倍ぐらいのサイズだ。由美は喜んで食べている。
「いよいよ明日ね。由美、調子はどう?」
「うん。あとはなるようになるだけ。」口いっぱいにハンバーグを頬張りながら由美が答える。
「そうだよね。」美奈子が頷く。
「ねえ、お父さん。」
由美が照れくさそうに和彦を見た。
「どうした?」