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『父娘の想い』彰山立夏


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「由美さん、この大学は難しくても、あなたの成績なら行ける大学はたくさんあります。もっと現実的な選択をしてみたら?念のため他の大学も併願するという方法もあるし。」川村先生が由美に畳みかける。
「でも、私・・・。」由美がうつむきながら細い声で反論しようとするが、結局言葉にならなかった。
「お父様はどのようにお考えですか?」先生が矛先を和彦に向けた。
 和彦は一つ大きく息を吸うと、川村先生をまっすぐに見据えた。もう心は決まっていた。
「先生、確かに私から見ても、第一志望に合格するのは難しいように思います。」
 和彦の言葉を聞いて、先生は大きく頷く。
「でも・・・、たとえ道は険しくても、そこに向かって努力することこそが大事なのかとも思います。」
 そこで由美がはっとしたように顔を上げた。
「勝負に勝つことだけが幸せじゃない。最終的に負けたって、そこから得られることもあるんです。私自身、由美からそれを教えられました。一番悔しいのは、戦って負けることではなく、精一杯戦えないことだと思います。可能性はゼロじゃない。五パーセントもあるんです。だから・・・。」
「この子のことを信じてやってください。」
 気付いたときには和彦は両手を机に付いて頭を下げていた。
「お父さん・・・。」由美は何が何だかわからない様子だ。
 川村先生はしばらく黙っていた。
 そして、「由美さん、受験まであと二か月です。悔いのないように準備をしましょう。」と微笑んだ。

 学校を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。長く厳しい冬の訪れを告げるように、冷たい風が吹き抜けて行く。
 和彦は由美と並んで家路についていた。結局、あれで進路指導は終わったのだが、由美は何かを考え込んでいる様子で、学校を出てから一言も話さない。
「由美、腹減ったな。ラーメンでも食べて帰るか。」和彦は努めて明るく話しかけた。
「うん。」由美が小さく頷く。
 入ったのは和彦が飲んだ帰りによく寄るラーメン屋だった。店の中はお世辞にもきれいとは言えないが、味は間違いない。
 二人分の味噌ラーメンが運ばれてきて、和彦が食べようとしたときだった。
「ねえ、お父さん。」由美が言う。
「なんだ?」割り箸を手にしたまま由美を見る。
「どうしてあんなこと言ったの?ずっと反対してたくせに。」
「娘を信じられない親がどこにいるんだよ。」
 ぼそりと答えると、和彦はラーメンをすすった。
「ほら、麺がのびちゃうから由美も早く食べろよ。」
「うん・・・。」

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