「明日お弁当作ってよ。」
「えっ?」和彦は驚いた。あんなに嫌がっていたじゃないか。
「あのときはごめんなさい。お父さんのお弁当、見た目は悪かったけど、ほんとは美味しかったんだ。」
そうだったのか。もっと早く言ってくれれば良かったのにと和彦は苦笑いする。
「分かった。作ってやるよ。」
「ぜったい卵焼き入れてね!」
「じゃあ。行ってきます。」
由美が玄関で振り返る。その顔は、二か月前の自信のない顔ではなかった。
「しっかりね!」美奈子が笑顔で言う。
「がんばれよ。」和彦は少し心配そうだ。
由美がドアを開けると、真冬の凛とした空気が家の中に流れ込んできた。
「ほら、お弁当だ。」和彦はシラスたっぷりの卵焼きが入った弁当箱を由美に手渡す。少し美奈子に手伝ってもらったが、今回はかなりうまく作れたと思う。
「ありがとう。」
由美はにっこりと微笑むと、コートを翻して、たった一人戦場に向かって行った。
その背中を見送りながら、和彦は心から娘の勝利を祈った。