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『この日、僕は『家族』をした。』雨宿ひろゆき


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「番外編。幸福を求めた物語の最後には、必ず光が灯るもんなのさ。だからほら、見てみ」
 アルバムの一番後ろには、産婆に取り上げられて間もなく僕の腕に抱かれた彩香の写真が張ってあったはず。そこには、こう記した。
「『生まれて来てくれてありがとう』。あいつ、俺に本を借りに来るとたまに勝手に棚からこれを引っ張って、眺めて出て行くんだ。今でもだぞ。そんな父親が、娘を本当に嫌っていると思うか? アレはお前のおばあちゃんに似て口下手で、素直じゃないところのある奴だが、本当に守るべきものや、愛する人を見誤ったりする男じゃあない。何と言っても俺の息子だからな。見ろよこの緩みきった顔。すれ違う奴全員に喧嘩を吹っ掛けていた奴の顔とは思えないだろ」
「どうして、それをおじいちゃんが持っているの?」
「彩香が生まれてすぐだったかな。あいつな、これを持ってきて、『育ててくれて、本当に有り難うございました。雅子と彩香を、誰よりも幸せにしてみせます』って頭を下げに来たんだよ。あいつなりに、人生の節目だったんだろう。その証人になって欲しくて、俺にこれを渡したのかもなあ。立派になったもんだ。少し前まで似合いもしないリーゼントを、こうやって振り回していたくせによ」
 そう言う父は、最近の無口さを払拭するかのように愉快そうに笑っていたのだった。

 
 そのあと、彩香はすぐにリビングへ戻ってきた。
 僕が腰から深く頭を下げて謝ると、彩香はきょとんとして戸惑っていた。それもそうだ、こんな風に謝ったことなんて一度もなかったし。
「なにそれ、綺麗に腰が曲がりすぎでしょ、馬鹿みたい」
 笑われた。
「でも、私も馬鹿だったから。その、ごめん」
 彩香は、やはり都内の大学に進学したいようだった。しかもその学費を一部でも負担するというのだから、親としてはそれを応援したいところである。一人暮らしをさせる点に不安が残るが、それを除けば反対する理由もない。きっと、巣立ちの時なのだろう。
「なんだ、こんなすぐに許してくれるのなら、もっと早く話せば良かった」
 この日、僕は娘と喧嘩をした。仲直りをした。
 話をして、話をした。心が繋がった。
 家族をした。

 
 ところで、どうして彩香は父の部屋にいたのだろう。特筆しておじいちゃんっ子というわけでもなかった気がするのだが。その原因は、あの洗口液にあったらしい。

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