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『この日、僕は『家族』をした。』雨宿ひろゆき


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 雅子も苦しんでいたのだろう、こぼれ落ちる一言一言が懺悔のように胸に沈み込んでいく。
「彩香があんなに辛い顔をするくらいなら、もっと早いうちに話し合うべきだったのよね」
「それにしても大学の学費なんて、なんでまた」
 大学の学費なら、我が家の蓄えでも充分に賄えるはず。分からなかった訳ではないだろう。
 彩香の叫びが、胸と耳に焼き付いて離れない。
 あの子は、あの子なりに自分のことを考えていた。口から飛び出したあの怒りは所詮僕の驕りで、それこそが家庭の調和を乱していたのだろうか。
 子供が、親の手を離れて巣立つ準備を始めている。まっすぐ子供に向き合っていなかったのは僕の方だった。
 もう一度、もう一度ちゃんと話し合わせてもらうべきだ。僕は彩香に謝らねばならない。
 足音を立てずに廊下を歩く。彩香の部屋は二階への階段を上がったところにある。そこへ差し掛かったところで、どういう訳か父の部屋から彩香の声がした。引き戸が中途半端に開かれている。僕は壁を背にして、恐る恐る忍び寄ることにした。
 薄暗い部屋の中には二人の陰。安楽椅子に座っている父と、その近くのタンスに背を預けながら膝を抱えて座っている彩香だった。
「私ね、東京の大学に行きたいの。きっとお父さんは学費を払ってくれるんだろうけれど、でも、せめて普段の生活費くらいは自分でなんとかしたいんだ。地元の大学だったら実家から通えるけれど、都内だとそうもいかないし、家賃も高いし。東京の大学に行きたいっていうのは私の我が儘だから、そこまで払ってもらうのは申し訳なかったからさ。だからまずは行動で示そうって、出来るところから始めたんだけれど……なんだか空回りしちゃった、馬鹿だよね私。ちゃんとそう言えば良いのに、反対されるんじゃないかって怖くて。怒られてばっかりだし」
 そんなことを思っていたなんて。
「私、お父さんに嫌われているんじゃないのかな」
 僕は。
 思わず、その場にうずくまってしまった。
 頷いた父が安楽椅子からおもむろに立ち上がる。部屋の角にある桐棚から表紙の色あせたアルバムを取り出すと、それを片手に彩香の隣によいしょと座り込んだ。
「見たことあるか? ないだろ。裏アルバムってあいつは呼んでいたが、元々はせがれのアルバムなんだよ。ほら、これがガキの頃のあいつだ。んで、こっちが高校時代。すごいだろリーゼントが。そんなせがれも、今となっちゃあ分別わきまえた男になっちまったが、当時はそりゃもう凄かったもんよ。俺がどんだけ頭を下げたことか、首がいくつあっても足りなかったね。……お? なんだ、そんなに面白かったかこの写真」
「うん。だってついさっき、私のこと不良って言ったんだよお父さん」
「ああそりゃ、どの口が言ってるんだよってなるわな。相当なワルだったぞあいつは。それでな、これが結婚式のときの写真。雅子さんが手を差し伸べてくれたお陰で、せがれは有り難いことにゴールイン出来たって訳だ」
「この次のページは?」

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