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『亜津美の受験』曽我部敦史


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 塾長は肩を叩いてねぎらってくれた。
 仁美さんが希望の大学に合格したことをメールで知った亜津美は、祝福すべく彼女の姿を探した。建物内にはいなかった。となれば、いる所はひとつだ。建物裏の喫煙所に行くと案の定、仁美さんの姿があった。
「あっ、亜津美ちゃん。お疲れさま~」
 電子タバコを吸っていた仁美さんがにっこりと笑った。
「仁美さん。おめでとうございます!」
 互いの健闘をたたえ合い、ハグをした。
「仁美さん、なんか臭う」
「昨晩、飲み過ぎちゃって。ひとり祝賀会」
 お酒好きの仁美さんは、ずっと飲まずに勉強に打ち込んできた。やっとそれも解禁となったのだろう。
 一方、妙子さんは納得の行く結果には至らず、二次募集を受けるということだった。まだ戦っている仲間がいる。塾内で大はしゃぎはできないのだ。
 合否の結果通知が郵送される予定の一週間はドキドキだった。郵便配達員のバイクの音がする度に、心臓がビクッとした。自分で確かめたいから、二階からドタドタと降りていくが、すでに祖母が回収を終え、玄関に立っている。こういうときに限って、祖母は妙に素早い。
「違かったわ」
 祖母はダイレクトメールをヒラヒラと振った。
「ああ、そう」
 亜津美は静かに頷いて部屋に戻った。そんなやり取りを数日繰り返した。今更あがいてもどうなるわけでもないのにイライラとした。ただ結果を待つだけでもストレスを感じるものなのだと亜津美は知った。
 最初に届いた通知は、すべり止めの大学からだった。すべり止めとは言え、封を破る手が少し震えた。えっ? 声が出た。結果は不合格だった。何かの間違いでは? 何度も見直した。やっぱり不合格だった。その日は最悪だった。ごはんも食べずにずっとベッドで寝込んでいた。
 次に届いた通知も、不合格だった。信じられなかった。家にいると家族に当たり散らしてしまいそうで、外出した。塾にも行きづらかった。塾長の顔を見たらきっと泣いてしまう。亜津美は走ることにした。中学時代は陸上部だった。川沿いの道をただ、無心に走った。久々のランニングはすぐに息があがりキツかった。だけど、走り終えた後の気持ちの良さは昔と変わらなかった。
 家に帰り、自分の部屋に入ると机の上に本命校からの通知が置いてあった。祖母が置いてくれたのだろう。見た瞬間、またダメかなと思った。それが今までと同じ縦長の小さな封筒だったからだ。塾の仲間に聞いた話によると、合格の場合はその後の手続きのための書類が同封されているので大きい封筒が送られてくるらしい。亜津美は額を汗で濡らしたまま、カッターで開封した。カッターの刃を戻さずに机に置いた。不合格だったらどうしよう。全滅だったらどうしよう。貴重な一年間を無駄にしたことになる。そのときは、ひと思いにこのカッターで・・・。それほど亜津美は思いつめていた。

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