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『亜津美の受験』曽我部敦史


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 いわゆる不良で、高校は中退。一度、成人式の写真を見せてもらったことがあったが、正直、引いてしまった。すでに幼い男の子を持つシングルマザーである。子供のために一念発起して、高卒認定試験をパスしてからの大学受験である。
「でも、今じゃ、その家族に助けられてる。ホントに情けないよ。わたしゃ」
 仁美さんはそう茶化したが、彼女が人一倍努力していることを亜津美は知っていた。塾の自習室ではいつも最後まで勉強していたし、朝は一番に来て、床の掃き掃除やテーブル拭きを率先してやっていた。仁美さんに比べると、私なんて全然根性入ってないよな。亜津美はそう思っていた。
「家族のありがたさはひとりになってみないとわからないのよ。亜津美ちゃんはこれから嫌というほど思い知るから」
 二人のやりとりを聞いていた妙子さんが言った。30を過ぎている妙子さんは、一年前まで普通のOLをしていたが、弁護士になるため退職し、大学に入り直そうとしている。
「そんなものですかね」
 一人暮らしに憧れている亜津美には、妙子さんの言葉もいまいち実感が湧かない。
「この年になると、いろいろ親孝行したいんだけど、結局、心配ばっかりかけてる。私も情けないよ」
「はあ」
 親孝行か、亜津美はそんなことを真剣に考えたことはない。
そのとき、冷たい風がびゅっと境内を通り抜けた。
「うう、寒い。これで風邪ひいたらシャレにならないよ」
 仁美さんは思わず体を丸めた。相変わらず列はノロノロとしか進まない。
「時間がもったいないから英単語のひとつでも覚えようか」
 妙子さんはボロボロになった豆単をカバンから取り出した。仁美さんも暗記カードをポケットから出した。準備の良さに感心した。
「あ、私も持ってくればよかった」
 こういうところに覚悟の違いが現れているのかもしれないなと亜津美は反省した。
 塾の仲間たちはちょっとワケありで個性的な生徒が多かったが、ハングリー精神旺盛な人たちに囲まれて一年過ごすことができたのは、亜津美にとって幸運なことだった。
 亜津美は現役生のとき、塾に通わず自力で合格を目指した。だが、甘かった。結果は全滅だった。浪人することに決め、予備校を探したが、大手の予備校の学費は高く、亜津美の家では手が出なかった。そんなとき、幸運にも個人経営のY塾を見つけた。一軒家を改装した小さい塾だったが、評判は良かった。説明会に行き、即決した。学費の融通も利き、自転車で通える距離だったのも好都合だった。塾長はパンチパーマの強面だった。実は塾長も学生時代はかなりやんちゃで、周りにかなり迷惑をかけてきたらしい。だが、今は面倒見の良い頼れる経営者だった。
 亜津美はそのY塾で、一年間懸命に勉強してきたのだ。

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