『おばあちゃんのおせち』石川理麻(『鶴の恩返し』)
ツイート 祖母は口ベタで、お世辞を言ったり機嫌をとったりするような人ではなかったけれど、誰からも好かれて頼られていた。豪快な人だった。 ビビるとか、怖いとか、逃げるとか、そんな人間臭くて弱っちいキーワードは、彼女の辞 […]
『赫い母』つむぎ美帆(『子育て幽霊』)
ツイート 羽嶋郁美の名を見たのは、中学卒業以来、十八年ぶりのことだ。 今でもどこか、彼女の存在に触れることは何か、自分の中では禁忌のような感覚がある。その名を聞いて思いを馳せるだけでも。だから、彼女の名を冠した展覧会 […]
『プラネタリウムの空』中野由貴(『シンデレラ』)
ツイート 改札口をぬけると「ああ東京に帰ってきた」という気分になった。もうプログラムは始まっているのかもしれない。私の頭の上にある、プリンアラモードみたいなドームが、だんだん白く色あせていく。ポケットに手を入れてチラシ […]
『救われた人魚姫』あべれいか(『人魚姫』)
ツイート 「え、それどういうこと?」 いま私の部屋のベッドの上で、メイクが崩れパンダ目になりながら泣いているのは、中学時代からの友人で同じ高校に通っている親友の未央だ。 「だからぁ、結城は私に告白する予定じゃなかったっ […]
『ぼくと、4つのせかい』田中和次朗(ネイティブアメリカン民話『ホピ族の予言』)
ツイート ぼくは、そうすけ。草を助けると書いて、そうすけっていうんだ。 おばあちゃんから聞いた、とても大切な物語がある。たったひとつのその物語はすべて、ぼくの記憶に記録されている。 不思議で、可笑しい。でもほんとうだと思 […]
『鬼の誇りの角隠し』メガロマニア(『桃太郎』)
ツイート 暗闇に包まれた浜辺に一隻の小船が打ち上げられていた。 暗い海の上で光る満月の月明かりが無ければ、その小船すらも見つけることは出来なかっただろう。 船から降りた少年は、波で濡れた身体を気にする様子もなく、浜辺を抜 […]
『竹取られ前夜』左竹未來(『竹取物語』)
ツイート すやすやと安らかな寝顔を見ているうち、朧の瞳に涙がこみ上げてきた。やがて、こらえきれなくなった嗚咽が漏れる。慌てて隣の間へ移ろうと腰を上げたところへ、声がかけられた。 「おぼろ?」 そっと涙を拭い笑顔をつく […]
『華麗なる人生』越智やする(『王様と乞食』)
ツイート 「君、私の息子になる気はないかね?」 突然の話に俺は目を丸くした。しかし目の前にいる旦那の目は真剣そのものだった。 「一体、どうされたのですか、突然。旦那様には治夫様がいらっしゃるではないですか」 「あれは勿 […]
『たぬきと小判』山波崇(『ぶんぶく茶釜』)
ツイート 五郎じいさんが、裏山にたぬきがいることを知ったのは12月の始めであった。それまでも年に何度か見かけることはあったが、人の気配を感じると、一目散に山奥に逃げ込み後は容易に姿を見せようとはしなかった。が、そのたぬ […]
『ふくらはぎ長者』薪野マキノ(『わらしべ長者』)
ツイート 最寄りの駅は、利用者が少ないわりには建物ばかりがやたらと大きい。かつて構内には薬局や花屋やドーナツ屋など小さな店が並んでいたが、ほとんどは閉店し、靴の修理屋と立ち食いそば屋が強情に居残っているだけだった。 […]
『ブラック企業版シンデレラ』西島知宏(『シンデレラ』)
ツイート むかしむかし、「シンデレラ」と呼ばれる美しい新入社員が、月間100時間以上の残業を強いられるブラック広告代理店で、意地悪な先輩社員たちとエンゲージメントを構築できずに働いていました。 ティザー期(入社前)はミス […]
『三人の鶴』片瀬智子(『鶴の恩返し』)
ツイート 関東全域の交通機関を麻痺させたこの大雪の中、カフェ・フルールは奇跡的に開いていた。駅から五分の小ぢんまりとした、イギリス風インテリアの喫茶店だ。小花柄の壁にアンティーク家具を配置した本格的アフタヌーンティーを […]
『マンモスだったお母さんと魔法使いになりたかったお父さんと小学生のあたしの幸せな時間』山本プーリー(『花咲かじいさん』)
ツイート お母さんは少し変わっている。よく独り言を言うし、急にいなくなっちゃうこともある。どこに行ったのか、お父さんは知っているんだと思う。夜、自転車に乗って迎えに行って、いっしょに戻って来るんだから。 あたしは小学 […]
『三つ巴』秋山こまき(『こころ』夏目漱石)
ツイート 午後十時、玄関チャイムが鳴った。 ドアを開けると秋子さんが立っていた。彼女は、僕の高校時代からの親友、須川直樹の恋人だ。一時間前、彼女から電話をもらった。 「彼が行き先も告げずに旅に出てしまったの」 そう […]
『私の欲しいもの』小嶋優美子(『竹取物語』)
ツイート 「良い寿司屋を見つけたんだ。姫乃さん、来週にでも一緒に行かない?」 「何か欲しいものはない?」 三國商事・伊豆支店に勤める男達は、毎日、新入社員の姫乃あかりの気を引こうと必死だった。艶めく漆黒の髪と、儚げな白 […]
『泥田坊』化野生姜(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)
ツイート とーんとむかし、一人の女が田んぼの泥に浸かって稲の苗を植えておった。 女は本来美しいはずの顔を泥にまみれさせ、それでも構わずに必死に苗を植えていた。女は姑にいじめられていた。夫と同居したいのなら日が沈むまでにこ […]
『ユリ』田中りさこ(『ヒナギク』)
ツイート 友莉は、水色のワンピースを買った。 高校生になり、初めての夏を迎える少し前のことだった。普段は優柔不断な友莉だったが、このワンピースは一目で買うと決めた。 薄い生地のノースリーブのワンピースは、余計な飾り […]
『家族』NOBUOTTO(『牡丹灯籠』)
ツイート 草薙は落ちつける場所を探していた。 サラリーマンで溢れる繁華街を抜け脇道へ脇道へと歩いていった。 繁華街のにぎわいも消えたところに飲み屋と古い住宅が半分混ざったような寂れた通りがあった。少女がその通りの中 […]
『リコレクション・イン・ゴールデンアフタヌーン』こがめみく(『不思議の国のアリス』)
ツイート 「『不思議の国のアリス』ってあるでしょ。あのアリスは3人姉妹なんだ」 僕たちも3人組だからさ、 と言いながら、日下直也がさっき思いついたという俺たちの新しいバンド名を走り書きする。 「アリスが谷本くんだね。で […]
『親心プログラム』飾里(『祖母のために』宮本百合子)
ツイート 祖母が生きかえった。 はじめ、僕は祖母が死んでいなかったのだと考えなおした。一昨日の夕方、祖母が家の前で車にはね飛ばされて十メートルも飛んだのは夢だったのだと。祖母の体が地面に叩きつけられて二度バウンドし、 […]
『The Wolf Who Cried 2020』田仲とも(『狼少年』)
ツイート ウゥーウウ、ウゥー。 狼の遠吠え。同時に規則正しく避難をはじめる人形の群れ。すっかり見慣れた日常の光景だ。僕の視界は今日も恒常的な無機質に覆われている。年中低めに設定された室温が体感でさらに一、二度冷たく感 […]
『シャボン玉』伊藤円(童謡『シャボン玉』)
ツイート 電車に揺られながら考えるのは祖母のことばかりだった。晦日や盆ではない平日の昼、乗客は少なく、しん、と静寂が車内に満ちていた。がた、ごと、車輪の音は眠気を誘い、きら、きら、車窓に滑り込む光は瞼を閉ざさせる。一人 […]
『ねむねむハクション』みなみまこと(『三枚のお札』)
ツイート 祥平は、目覚ましのアラーム音で目を覚ました。 六畳のアパートの部屋に、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。 横を見ると、隣の布団に寝ていたはずの妹がいなかった。 部屋の中を見渡す。少し散らかった部屋 […]
『日向の蛙』枕千草(『カエルの王さま』)
ツイート 地下鉄から東京駅へ歩いていく途中で弟に会った。 全員が本当に何か目的を持って歩いているのかと疑いたくなる程にたくさんの人が行き交う中で、何故それが弟と気づいたかと言うと、彼がすれ違い様に私に声をかけてきたか […]
『彼女との距離』野口武士(『竹取物語』)
ツイート 「引っ越すってホント?」 そう聞くと、彼女はうつむき加減に、弱々しく笑って頷いた。 「父さんと母さんがね、そろそろ、また一緒に暮らそうって」 「そう……」 僕は言葉を続ける事が出来ない。無言で並んで歩き続け […]
『桜の樹の下には』ハラ・イッペー(『桜の樹の下には』梶井基次郎)
ツイート 桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。だって、お父さんの本棚にあった難しい本の中に書いてあったんだから。 とは言っても、やっぱりそんなことを知ってしまった以上、実際に自分の目で […]
『彼女のcoffee time』山下みゆき(『浦島太郎』)
ツイート その小さな喫茶店は、海を見渡せる岬の上にあった。店主のケンジさんは、そこでかれこれ40年も珈琲をいれ続けていた。 事が起きたのは、氷が張るほど冷え込む2月の初めのことだ。 ケンジさんは、暖かくした店の中で […]
『かぐや姫へ、愛を込めて』メガネ(『かぐや姫』)
ツイート 女なら、一度は童話のお姫様に憧れるものだ。その美しさで世の男性たちを惹きつける、最高にドラマティックなヒロインたち。けれど彼女たちの美貌は、幸せばかりを運んでくるとは限らない。王子様と結ばれたシンデレラはとも […]
『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)
ツイート 朝起きると洗面台に行き、顔を洗ってうがいをする。居間の障子を開け朝日を部屋の中へ招き入れると雲一つない空を眺めて健一は満足そうに笑った。梅雨明けの発表とは裏腹に曇りが続いていたが、これでようやく布団が干せる。 […]
『おバカの王様』美土すみれ(『はだかの王様』)
ツイート むかしむかし、とある国のある城に王様が住んでいました。王様は新しい服が大好きで、服を買うことばかりにお金を使っていました。天然資源に恵まれた王様の国は、お金は有り余るほどありましたし、家来はみなとても優秀なの […]