小説

『ブラック企業版シンデレラ』西島知宏(『シンデレラ』)

むかしむかし、「シンデレラ」と呼ばれる美しい新入社員が、月間100時間以上の残業を強いられるブラック広告代理店で、意地悪な先輩社員たちとエンゲージメントを構築できずに働いていました。
ティザー期(入社前)はミスキャンパスだったのですが、ローンチ後(入社後)は人事部の女性社員の妬みにより不当に扱われ、配属されるはずのない媒体局の新入社員として、昼も夜もマヨネーズを吸いながら過ごしていました。

ある日、クライアントのご子息が城で盛大な打ち上げを催すことになり、同じ部の二人の先輩女性たちは、ヘアメイクとスタイリストを手配し、アプリで手配したタクシーで出かけていきました。

シンデレラも行きたかったのですが「人数を絞ってくれ」というクライアントオーダーがあり連れて行ってもらえませんでした。
悲しくなったシンデレラは泣き出してしまいました。

すると、彼女に「シンデレラ」というネーミング(あだ名)を与えた「仙女」と呼ばれるクリエイティブディレクターがどこからともなく現れ、営業局で余っていたチケットとクライアントの商品を手配してくれ、シンデレラは打ち上げに参加できることになりました。

スチール撮影でタレントが着たドレス、CMの大道具として使ったかぼちゃの馬車、流通向けのサンプリングとして作ったガラスの靴です。

最後に、仙女はシンデレラにディレクションを効かせました。

「テッペンを回ったら、馬車もドレスも靴もクライアントに返さなくてはいけない。
必ずお尻を確認しなさい・・」

「なるほどですね」

シンデレラは、大喜びで打ち上げ会場へ出かけました。
 

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