まっくらな闇が、ずっと広がっている。
暗闇に火を点けろ、夜に火を灯せ。
暗闇に火を点けて、朝を歌おう。
けれど、まっくらな闇は冷たく広がって、心に灯った炎を消してしまう。
そうしたら、私にできることはもういくつもない。
息を殺して。目を閉じて。
風に歌を託して、夜が明けるのを、じっと待とう。
『Ignite』 inspire for 『マルドゥク・ヴェロシティ』&『もらい泣き』
誰もが暗闇に火を点けられるんだ。
──叩きつける酸性の雨が、銃弾みたいに冷える夜だった。
過去。十年前。フラッシュガン交差点。事故現場。信号機に打ち付けられたバンドワゴンからは、音響機材が投げ出されている。ワゴンにロボット制御のタクシーが激突する。爆音が響く。通報を受け駆けつけた俺の横で、カメラの
そして一際大きく
「──フライト。フライト!フライト・マクダネル刑事!」
俺をよぶその言葉が、束の間の明晰夢から呼び戻した。
マルドゥク市警=俺の職場。目の前の男=抜群の記憶力を持つ俺の相棒、ランデル・コーンウェル。