二月四日。海の青さは照らされた太陽の光と澄んだ空気によってより一層映えている。そんな海辺で、欲張りで有名な爺さんと、両ほっぺに大きなこぶを持つ爺さんは、焚火をしながら流れる風の冷たさに耐えていた。
そんな折、近くの藪から草木を掻き分ける音がする。気付いた二人の爺さんが音のする方へ視線を向けたその瞬間、そこに現れた姿に緊張が走った。
「鬼じゃっ」
震えた声が誰もいない海辺に響く。逃げる体勢を整えている暇はない。強張った表情で二人の爺さんは不恰好に逃げ出す……と思いきや、欲張り爺さんはその場に突っ立ったままでいた。
「ちょっと待て」
欲張り爺さんは、既に逃げ出し始めていたこぶの爺さんを引き留める。
「随分と弱っているようじゃ」
鬼はおぼつかない足取りで、傷だらけの体を頼りなく左右に揺らしていた。やがて体はよろめき崩れ、前のめりに倒れ込む。
二人の爺さんは茫然とした。顔を見合わせ、何が起きているのか、どうしたらいいのかを互いに探り合う。が、結局答えは出なかったようで、後ずさりをするように一歩一歩鬼に近づき、恐る恐る人差し指で鬼の肩の辺り突く。
……反応はない。どうやら気を失っているようだ。
「どうする?」
戸惑うこぶの爺さんの横で欲張り爺さんは腕を組んで考える。
「そうじゃなぁ……わしらで看病してやるってのはどうじゃろうか?」
「正気か? 目の前にいるのは鬼じゃぞ」
「だからこそじゃ」
「だからこそ?」
欲張り爺さんはうっすらと笑みを浮かべる。
「鬼であれば人間から奪った大量の金品があるはずじゃ。そんな鬼を助けたとなれば、わしらに分け与えてくれるかもしれんぞ」
「鬼がそんなことをしてくれるとは思えんのじゃが」
「まぁええじゃないか。どうせこんな傷だらけの体じゃ何もできん。わしらに危害を及ぼすことはないじゃろう」