小説

『悪者たちの竜宮城』ききようた(『桃太郎』『こぶとり爺さん』『花咲じいさん』『浦島太郎』)

「まぁ仕方ないじゃないか。人それぞれに事情があるように鬼にもいろいろと事情があるってことじゃ」
 同情したこぶの爺さんはそう擁護した。
 それからというもの会話は途切れる。居たたまれなくなった鬼は何もお返しができないことに後ろめたさを感じつつ、その場を去ることにした。
「そろそろ行きます。大変お世話になりました」
 そう感謝の気持ちだけを残し、その場を去って行った。大きいはずが背中がどんどん小さくなっていく。
 その時、鬼の後姿に向けられた声が海辺に響く。
「ちょっと待ちなさい」
 声の主は欲張り爺さんだった。
「これからどこへ向かうつもりじゃ?」
 欲張り爺さんはそう言いながらゆっくりと鬼の元へと歩み寄る。
「どこって、鬼ヶ島に帰るだけですけど」
「帰ってどうするんじゃ?」
 鬼は何も答えられなかった。帰ることに理由なんてものはない。
「どうやらおまえさんとわしらは似た境遇にいるようじゃ」
 似た境遇? 鬼は首を傾げる。
「わしら二人もわけあって町の人々からは忌み嫌われておる。いわゆるならず者というわけじゃ。鬼ヶ島でのおまえさんの立場も多少は理解できるというものじゃ」
 二人の爺さんの過去に何があったのかを鬼は知らないし、勝手に分かった気になられるのも癪に障る。しかし、それでも不思議と悪い気にはならなかった。
 そして、欲張り爺さんは鬼にある提案を吹っ掛ける。
「おまえさんもわしらと一緒にここに居ればいい」
 突然そんなことを言われても、即答できるものではない。
「お誘いは嬉しいのですが、こんな人間の住む場所に鬼が居るなんておかしなことですよ。ここに居る意味もないですし」
 鬼はやんわりと断ったつもりでいたが、欲張り爺さんには通用しない。
 

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