小説

『悪者たちの竜宮城』ききようた(『桃太郎』『こぶとり爺さん』『花咲じいさん』『浦島太郎』)

 二人の爺さんは少し離れた小高い丘の上から、その光景を眺めていた。それに気付いた鬼が二人の元に近づいていく。
「こんなところで何しているんですか? 向こう行きましょうよ。盛り上がってますよ」
 感情が高ぶる鬼の声は通常より幾分大きい。
「勘弁してくれ。年寄りのわしらにはもう体力が続かんよ。それに、ここでしみじみとうまい酒を味わうのもいいものじゃ」
 嬉しそうにそんなことを言うこぶの爺さんの横では、欲張り爺さんは微笑みながら酒を口に運んでいる。
「おまえさんはまだ体力が余っておるじゃろ。行ってきなさい」
 その言葉を聞き流し、鬼は何も言わず二人の爺さんの横に座る。
 宴の盛り上がりとは対比するように、ここはゆったりとした時間で包まれている。海から流れてくる潮風が爽やかで、遠くから聞こえる音は騒がしくも心地いい。
「それにしても、竜宮城に行ける日はいつになるんですかね?」
 何気なく話を切り出したつもりの鬼であったが、こぶの爺さんは意外なことを言う。
「その日はきっと……来ないじゃろうな」
 鬼は驚き、言葉を失う。疑いなく信じていたのがこの二人の爺さんだったはずだ。それがこの場に及んで弱気になるなんて、らしくない発言に鬼は失望する。
「諦めるつもりですか?」
「諦めるって言われると癪に障るというもんじゃ。ただ、わしはもう満足なのじゃ」
「満足?」
 鬼はどうしても理解ができなかった。少なくても鬼の知る範囲では、そんなことを言うような人ではなかったはずだ。理解出来ないのであれば、納得なんて出来っこない。そんな様子を察知し、こぶの爺さんは付け加えるように言う。
 

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