『メイメイ』
淡島あわい
栗山自然公園のマスコットキャラクター・メイメイは、今日も子どもたちに恐れられている。困った職員たちは、可憐な容姿の新生メイメイを製作する。新生メイメイは人気を博し、子どもたちのアイドルとなる。安堵する職員。が、会場の暗がりに、あのメイメイが佇んでいるのを見つける。(小説)
『割引シール』
梨田のりこ
スーパーのパートをしている林子は割引シールを貼らないでという客に出会う。夫が買ってくるプリンやゼリーにはシールが貼られている。娘の萌音は割引しているから買ってきたに過ぎないと不機嫌になった。夫の家族に対する思いは割引されていると思うと同時に自分自身が割引されていると感じる林子。(小説)
『少年野球と父』
太田純平
少年野球チームの僕が今日もグラウンドにやって来ると、ショートの福徳が監督やコーチに悪意のあるあだ名をつけ笑いを取っていた。そんな折、グラウンドの外から練習を覗いている怪しげな男が現れる。福徳はその怪しげな男にもあだ名をつけろと要求されるが、その男こそ福徳の実の父親であった。(小説)
『夢をあらめる人たちの物語 ~夏の図書館~』
梶浦菊
図書館で働く石川はクーリングシェルター利用するお年寄りたちに困り果てていた。一般の利用者に迷惑となる行為が多いからだ。中には図書館を利用するのをやめる人もいた。よく来る神田もそのひとりだった。神田はおそらく大学野球の選手でこの先の進路に迷っている。石川もかつては野球少年だった。(小説)
『かえる』
丸亀山葉
東京の片隅に住む男は、じっとりとした梅雨の金曜日の夜、アパートの近くで蛙を見た。あくる日男は蛙の姿になっており戸惑う。蛙の姿のまま土日をすごすが、いよいよ出勤時刻が近づき男は焦った。しかし蛙のまま余生を過ごすのも悪くないのではと思った矢先、男はトラックにひかれる。(小説)
『人形婚』
川音夜さり
「息子がかえってきた」と嬉しそうに語る老寡婦の志麻。しかし彼女の息子は四十年も昔に事故死していた。担当ケアマネジャーである私は、それを認知症による幻覚だろうと考える。しかし、自分の現状について懊悩する私は、志麻の言葉をきっかけに、彼女のおぞましい幻想に巻き込まれていくことになる。(小説)
『耳元にゆんゆん』
柿ノ木コジロー
小5の夏休み最終日、突然ガキ大将に呼び出された僕。ひどい目に遭うのでは、との杞憂は驚きの出来事に払しょくされる。しかし翌日登校日で、僕はひどい裏切りを食らう。このままでいいのか。(小説)
『ペデストリアンズ・イン・サイレンス』
アツシ
ある男は河川敷に横たわる一本の歩道を歩いていた。暗くなるまでには河川敷から出ようと考えていた彼だが、どれだけ行っても出口は見つからない。しかし、彼と出会う人々は絶えることはない。一体彼らはどこから来て、どこへ向かうのか。出口のない歩道の終わりの見えない静かな恐怖。(小説)
『ある男とある女』
RIKA
愛情を受けられない家族の元で育ち大人になった男女が幸せを探して、一見穏やかに暮らしているようにみえる。しかし無意識には愛情を渇望し、心はもろく、傷は深くて消えないという現実。些細なあることで終わってしまう日常。(小説)
『迷いっ子』
田向秋沙
どこの誰かも判然としない迷子は涙目になりながら、二人の子供に対して、遊びの相手をするよう求めた。夕暮れ時、その迷子と遊んでいるうちに、二人の少年は草地に置いてけぼりを食らうことになる。その迷子の正体は、誰しもが一生に一度だけで出会うことになる「迷いっ子」だった。(小説)
『地図にない地図屋』
川瀬えいみ
古い繁華街にある地図屋にやってきた、四十代半ばの成功した女性実業家。彼女は地図屋で過去に行く地図を使い、三十年前の反抗期に母にぶつけた一言を言わない人生を望む。地図を買った翌日(彼女にとっては三十年後)、地図の代金を払いにきた彼女は貧困家庭の主婦に変わってしまっていたが……。(小説)
『観月橋』
香久山ゆみ
毎年中秋日に開催される、住吉大社の観月祭。何年もの間欠かさず私が訪れるのは、かつて恋人と約束したからだ。将来を誓いこそしなかったが、愛し愛されていた。そう信じたいけれど、今年も彼は現れない。諦めかけた時、「お待たせ」と肩を叩かれる。(小説)
『シソウノウロウ』
水絹望音
ある日、詞藻膿漏と診断される。建前で美しい言葉を繰り返していたのが原因らしい。私は医師の指示に従い、とにかく黙るという治療を実行する。部下の書類の添削を通して、部下の特性を理解した私は、適材適所の仕事を部下に割り振ることができるようになり、課の営業成績は過去最高を記録する。(小説)
『18歳の選択』
安藤美冬
舞台は、地球によく似た、地球ではない星。ここの住人は、生まれついた時には性別を持たない。18歳の誕生日を迎えると、男か女どちらかの性別を選び、星で唯一の病院で性別選択手術を受けるのがルールだ。心が決まらないまま病院を訪れた主人公に、医師と看護師はそれぞれの立場から助言をするが……(小説)
『百年後の世界』
千紘リカ
西暦2125年。大野がこのラボの中で百年間の冷凍睡眠から目覚めてもう六十時間が経過していた。一刻も早く外の世界を見てみたいと願う大野だが、ラボは外側からしか開かない仕組みになっていた。やがて、ドアがあいて……。(小説)
『踊る理由』
宮沢早紀
発表会へ参加するかどうか。ダンスクラスの受講者は夏蓮を除き、賛成と反対に分かれていた。なぜレッスンを受けているのか、なぜ踊るのか。皆の動機が明らかになる中、夏蓮はそれが分らぬまま結論を急かされる。賛成と反対の板挟みになりながら、夏蓮は赤いダンス靴で踊ることしかできないのだった。(小説)
『綺麗な人』
中西仁美
お見合いの席を設けられた平凡な会社員上杉良。お見合い相手に現れた女性はぱっと人目を引く綺麗な人。なぜか彼女は上杉に初めから並々ならぬ好意を持っていた。「私、こんなに綺麗な人、見たことがないって思って!」と言う女性だが、それは上杉の台詞では?この女性、何もかも悟ったようにお見通し。(小説)