「ねえあなた、子供の名前考えてくれた?」
「うーん、考えてはいるんだけどまだ・・・」
女房に問われた『寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』は腕を組んで悩む。
「えっ、まだなの? 生まれるまでには考えといてくれるって言ってたじゃない」
「そりゃそうなんだけど。名前は一生使うものだから、考えれば考えるほど決まらなくて」
「もう出生届の提出期限まで日が無いし、一緒に考えようか」
「そうだな。ウチの病院を継いでもらわないといけないから、立派な名前にしないとな」
「貴方みたいに長い名前にする?」
「ダメだよ、こんな変な名前。苦労するだけだ」
「長い名前で苦労したの?」
「そりゃそうさ。テストの時も名前を書くだけで制限時間が来てしまう。枠内に書けないから名前は裏に書かないといけないし。フリガナやローマ字まで書かされる時なんてたまったもんじゃないよ。ローマ字で書くとアルファベットで229文字になるんだぜ。書いてられないよ。自分で名前を正確に書けるようになったのは小五の夏休み。書き初めをしても名前だけで半紙が埋まるし。そもそも面倒だからと誰からも正しい名前で呼ばれたことなんてないんだから」
「えっでも、貴方のことをモデルにした落語では名前を呼んでる間にタンコブが凹んだとかいろんなエピソードがあるじゃない」
「あんなもん作り話に決まってるじゃないか。現実にはみんな面倒だから寿限無としか呼ばないよ」
「そうなんだ。落語の話は実話だと思ってた。そんなに困ってたんなら名前を変えれば良かったんじゃないの?」