小説

『寿限無の名付け』名鳩玲(『寿限無』)

「・・・良かったよ。今のお前が幸せなら、俺も自分自身が幸せだと自信を持って言える」
「じゃあ、結果的に貴方は幸せってことね。お義父さんが名前に込めた思いは叶ったんだね」
「まあ、そういう事になるね。この名前で長く生きていたら日常的には名前のことなんか気にならなくなる」
「そうだよね。私も貴方の名前が気になることなんてないもの」
「名前なんて人を表すタダの記号だし。生き様が自分を作るから、しっかり生きてさえいれば自分が名前に振り回されることなんてなくなるよ。名前の前に自分自身なんだ」
「長かろうが短かろうが、そんな事はどうでも良いことなのかもね」
「親から子供への愛情がたっぷり込められていたらそれで良いんだよ。名前は人生で一番最初にもらうプレゼントなんだから」
「日本語には平仮名、カタカナ、漢字、ローマ字の四つの表現方法がある。たった数文字の名前にだって立体的に考えると色んな意味を込めることができる。日本の親は幸せなのかもしれないね」
「そうだね。名前を決めるのは大変で悩むけど、深く深く思いを込めることができるんだから悩み甲斐はあるよね」
「よし、じゃあ二人で子供へ送る言葉を書き出していこう」
「そうだね」
 手に筆を持ち半紙に向かう『寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』とその女房。あれこれ楽しげな表情で続く二人の語らいは、夜遅くまで終わることはなかった。

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