小説

『寿限無の名付け』名鳩玲(『寿限無』)

「まあ変な名前にはなったけど、お前が変な名前の俺を好きになってくれて、こうして子供まで産まれたんだから幸せだよ。お前と出会うまでは、俺と付き合ってくれる奴なんて居なかったから。むしろ避けられてた。まともに受け入れてくれたのはお前だけだ」
「うーん、貴方を好きになったのは一瞬の出来事だったから」
「えっ、どういうこと?」
「貴方覚えてない? 私の卒業式のこと」
「卒業式? まあ覚えてるよ。俺は医学部だから卒業はまだだったけど、医学部以外の同級生は卒業だったからね」
「貴方サークルの集合写真撮ってくれたわよね」
「ああ、確かその写真を送ってほしいと言われて初めてアドレス交換したんだよな。サークルで活動してた四年間はアドレス交換なんてしなかったのに」
「貴方、撮影の時、私に気遣ってくれたの覚えてない?」
「気遣い? 覚えてないな」
「私が貴方を気になったのはその撮影の時」
「どうして?」
「他のみんなは卒業式だから袴だった。でも私だけ貸衣装屋さんのトラブルで袴が間に合わなかった。だから一人だけスーツだったの。だから集合写真の時、遠慮して端っこに立ってた。でも、カメラを構えた貴方はそんな私を見つけて『サークルリーダーとして頑張ってきたんだから真ん中に立ちなよ』って言ってくれた。そしたらみんなそんな空気になって私の為に真ん中の席を用意してくれた」
「そんな事あったっけ?」
「貴方にとっては何気ない一言だったかもしれないけど、サークルリーダーとして頑張っていた私を貴方が見てくれていたことがすごく嬉しかった。だから貴方のことを好きになったの」
「そうだったのか? お前はサークルリーダーとしてこんな俺の事にも気遣ってくれてたから、感謝の気持ちが出たんだろうな。まあ、好きだったし・・・」
「ふふ、じゃあお互いだったんだね」
「なんだか照れるな。それで、今でもお前は俺と結婚した事を後悔してないのか?」
「もちろん。貴方は私が思ったとおりの優しい人だった。変な名前なんて関係ない。私は幸せだよ」

1 2 3 4 5