小説

『ジャック・アマノ』中西楽峰(『天邪鬼伝説』(広島))

 昼に出された給食のカレー。お約束でついてくる牛乳。どちらかに睡眠薬でも入っていたに違いない。黒板を前にハゲた斎藤先生が教科書を読経している。
 俺は剣道部で、昼も練習だった。心地良い疲労感と満腹感、つまらん授業の倦怠感で、たまらなく眠い。隣の女子も白目をむいてカクカクしている。さっきまで天野君ってちょっと日本人に見えない顔だよねと騒いでいたが、授業開始5分で息絶えた。どこの誰がどう控えめに表現してもクソつまらない歴史の授業中、俺はとうとう意識を手放した。

 湯(ゆ)蓋(ふた)道(どう)空(くう)。壇ノ浦で敗れた平氏の末裔。広島に塩田を開き、五日市港を開いた人物。
 湯(ゆ)蓋(ふた)道(どう)裕(ゆう)。湯蓋道空の子。父、道空の言うこと全てに反発し、逆の行動をとって困らせた。父道空は死の間際に、「わしが死んだら海の孤島、津久根島に埋めてくれ」と言い残してこの世を去った。本当は花の咲き乱れる海老山(かいろうやま)に埋めてほしかったからだ。天邪鬼な息子の事、きっとこの言葉に逆らい、海老山に埋めてくれるはず。しかし、天邪鬼だったはずの息子は涙を流して父の最後の願いを聞き入れ、うら寂しい無人島、津久根島に父を葬った。結局最後に聞き入れた父の願いは、父の意思に反するものだった。これは広島に伝わる天邪鬼伝説だ。

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