小説

『ユー&アイ』十六夜博士(『嫁入り竜女の忘れもの』(富山県))

 天国って良く知らないけど、きっとこういうとこかな?
 大好きなキャラクターグッズが所狭しと並んでいる。ペンギン、子猫、アザラシ、妖精。でも、私が好きなのは、このコジロー。小犬のキャラクター。私の顔ほどの大きさのぬいぐるみを、「これがいい」とお母さんの顔に近づけるように掲げた。
「ミクはそれを選ぶと思った」
 お母さんが笑う。
「このマグカップも買っていこうか」
 コジローが描かれたマグカップをお母さんが私に見せた。
「えっ、いいの?」
 目を丸くする。だって、好きなものを一個だけ買ってくれるって約束だったから。
「うん、だってこんなキャラクター展、田舎じゃ滅多にないからね。それに、このマグカップ、ミクの名前を入れてくれるんだって」
 自分の名前が入ったコジローのマグカップ――。それで毎朝、牛乳を飲む自分を想像する。自然と顔がニタニタしてしまった。
 やっぱり、ここは天国なんだ――。

☆☆☆

商店街のくじ引きに当たったこともないのに、嫌なものほどよく当たる。この世界はいつもそうだ――。
「全ての委員も決まったし、今日のホームルームは終了」
抽選で文化祭委員になった私の気持ちなどお構いなしに、担任のタカハシ先生はスッキリとした顔で言った。文化祭は11月だし、4月の今から忙しく何かをやる必要はないけれど、高校受験を控えた3年生だから、きっとみんな勉強に忙しくて協力的じゃないはず。すでにブルーだ。
みんなが教室から帰り始めたけど、脱力感で立てない。そんな私の前に誰かが立つ気配を感じた。ゆっくりと顔を上げると、満面の笑顔の女子。さっき名前を知ったばかりの、文化祭委員に立候補したワタナベさんだ。
「ミクちゃん、よろしく」
話したこともないのに、いきなりミクちゃんと呼ばれてたじろいだ。
「……うん。こちらこそ」
「ミクちゃんを連れて行きたいところがあるの」
えっ……。初対面なのに友達のように話してくる。人付き合いが苦手な私はこういう展開に慣れていない。でも、ワタナベさんは全く気にする様子はなく、「いこっ」と私を教室から連れ出した。

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