小説

『ユー&アイ』十六夜博士(『嫁入り竜女の忘れもの』(富山県))

次の日のホームルームで、ワタナベさんが文化祭の構想を発表した。教壇のところに2人で立つ。
「なるほど。みんなどうだ?」
タカハシ先生がクラスに問いかけるけど、多くの人は俯いていた。
「オオタ。どう思う」
静かな教室を変えようと、タカハシ先生は学級委員のオオタくんを指名した。学年一の秀才。
「……震災の時の恩に報いたいって言うのは、凄く共感できます。でも……。米を育てるのって大変なはずで、文化祭までずっと時間を取られるのはちょっときつい気が……」
「うん。なるほど」
タカハシ先生の言葉にワタナベさんは唇を噛み締めていた。
「あのー、百キロ。千人分作りたくて。それって列車三両分ぐらいなんです。肥料を入れたり、雑草を取ったりがあるけど、大掛かりな作業は一週間単位で出来そうなんです。だから、毎週七人ずつ作業に参加してくれれば、一ヶ月に一日だけみんなの時間を貰えれば出来ると思うんです。七人いれば列車三両分の雑草だって、一、二時間で取れると思う。勉強の息抜きにもなると思う」
昨日ネットで調べて、ワタナベさんの構想を素に考えたことを、一気にまくし立てた。急に喋ってしまった自分に自分でビックリしていると、ワタナベさんが私を笑顔で見て、ありがとう、と口パクで言った。
「どうだ? みんな」
タカハシ先生がクラスを眺めた。
「面白そうだな。毎日、畑仕事じゃ、遊べねぇって思ったけど、月一なら手伝うよ」
ちょっとヤンキーの男子が言った。
「サトウ、お前、今から勉強しない宣言すんな」
タカハシ先生のツッコミで、クラスがドッと湧いた。その後、クラスの雰囲気は一気に前向きになって、私達の文化祭が始まった。

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