小説

『旧い友人』平大典(『文福茶釜』)

 故郷に近づくにつれ、煙草を吸う頻度が増えている。
 金曜の夜、高速道路にはトラックばかりが走っていた。俺は一台の中型トラックのおしりにつっくき、じっと銀色に艶めくリアドアを睨んでいた。眠気はある。仕事終わりですぐに名古屋から出てきた。ステレオからは俺が選定したプレイリストの曲が流れていて、日本語の曲が流れると口ずさみ、洋楽が流れると体を軽く揺らしてごまかした。
 実家に到着したのは、午後十二時過ぎだった。両親は寝ていた。リビングのテーブルにラップ掛けされた里芋の煮物があり、それを胃に入れた。
 朝、目覚めると、久しぶりに両親と朝食の時間を過ごした。どちらも年を取っていたが、まあ元気そうだった。
 用事は夜からだった。中学校の同級生との飲み会だ。参加するのは大学生以来で、十年ぶりだった。日が落ちるまでは、俺は暇人だったが、自動車は運転したくなかった。昨日さんざん運転したからだ。
 俺はジャージに着替えて、近所を歩くことにした。周りは山ばかり。実家の周囲は田んぼが多く、健康的な黄色をした稲穂が揺れていた。俺はふらふらと自分が通っていた小学校の方向へ歩いていった。小学校は少し高い丘の上にあり、俺はふぅふぅと息を吐きながら、坂道を登っていく。何十メートル間隔で振り返ってみると、街を見下ろせた。たしかに懐かしい景色であった。幼いころよりも、小さく、しょぼく見えるのは、俺が成長したからだろう。身体はほんのり熱をもち、少しぼうっとしてくる。
 足の動くままに従っていると、やがて、小学校の裏側にある細い林道にたどり着いた。
 俺は思い出す。
 小さいころは、よくここを通ったのだ。この先には小さな家があり、友人が住んでいたからだ。サトシという名の少年で、ぼうっとした顔をしたやつだった。低学年の頃、俺はサトシといつも遊んでいた。小さな家には年配の男性、たぶんサトシのおじいさんがいるだけで、邪魔者はいなかった。鬼ごっこやけん玉、雪合戦、思いつく子供らしい遊びをして過ごしていた。

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