小説

『旧い友人』平大典(『文福茶釜』)

 土曜日の飲み会は盛り上がって、午前一時まで続いた。
 さらにカラオケに行った連中もいるらしいが、俺は一足先に帰宅した。
 日曜日の午前中。
 俺は昼過ぎに起きて、シャワーを浴びてからさっさと外出した。名古屋へ出発する前に、確認しておきたい場所があった。
 片桐との会話が気にかかっていた。
 俺は誰と遊んでいた?
 足を運んだのは、小学校裏の林道だった。木の枝が冷えた風で少し揺れる。人の気配はない。整地されていない、凸凹とした林道を進んでいく。二十メートルほど歩くと、寂れた家屋が見えてきた。屋根は崩れかけ、家屋全体が傾いているように見える。
 表札があったが読み取れない。もうこの林と一体化しそうな勢いだ。俺は思い出を掘り返すために、家の前をぐるぐると歩いてみた。だが、サトシと遊んだ記憶は曖昧なままで、鮮明にならない。
 溜息を吐きながら、今度は朽ちかけの家屋の周囲を歩いた。
 家屋の裏側だった。巨大な竹が一本、屋根を貫いていた。まあ、放置していればこうもなるよなと、滑稽な状況に少しニヤけていると、足元に石碑があるのに気が付いた。
 墓だ、と直感した。
 長方形の灰色の石。無精ひげのような苔は生えていたが、名前らしきものも刻まれている。
 俺はじっとそれを見下ろす。
 身体の中を不快な熱さが通っていく。俺が作った墓ではない。
 だが、俺はここに埋められたなにかを知っている。
 膝を折り、墓をじっと見つめた。
 熱さはまだ抜けず、いや、さらに身体中の体温を上げてくる。汗が噴き出す。
 俺は素手で土を掘っていた。考えての行動ではなく、ほぼ本能みたいなものだった。
 掘れば掘るほど、指は土で汚れた。一方で、サトシの顔が鮮明になっていく。
 いつも遊んでくれていた。
 小学校一年生の頃、林道へ迷い込んだ俺に話しかけてくれた。
 サトシが飼い主のつけた名前が気に入らないからとぼやいたので、俺がサトシと名付けた。アニメの主人公の名前だ。

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