「僧兵じゃ」
暴風雨の中、どこからか声が聞こえる。唖然として俺は立ち尽くした。周りに見えるのはのどかな田園風景だが、稲が横倒しになるほどの雨風だ。海が近いらしく、潮っぽい風が吹いてくる。なぜ俺はこんなところにいるんだ?
粗末な着物に時代劇のようなまげを結った中年の男が近づいてきた。みのを肩にかけている。おじさんには悪いが、こんな格好の人を俺は見たことがない。
「僧兵のお坊様、こんな嵐の中どうなされました。外は危ない。…ははあ、旅の途中でしょう。髪が伸びていらっしゃいますものな。でしたらどうぞ、屋敷へおいでください」
僧兵ってあれか。武装した僧のことか。なぜか俺は道着に防具を付け、竹刀まで手に持っていた。髪もまあおじさんよりは短いだろう。俺は混乱しながら尋ねた。
「ここはどこです?」
「安芸(あきの)国(くに)の海老山です」
「海老山…?」
間違いなく俺の住む町にある山。でも道はアスファルトでなく土で固められ、辺りには木造の日本家屋が立ち並んでいる。立ち並んだ家の一軒におじさんは入って行った。かなり立派な屋敷だった。俺もついて行った。勝手口から中に入ると、数人が土間で肩を寄せ合っていた。全員くすんだ色合いの粗末な着物を着ている。
まさかの全員時代劇。唖然とする俺に、近くにいたおばちゃんがとんでもないことを言ってきた。
「お坊様、よう来なさいました。どうぞ嵐が静まるようお経でもあげてください」
「へっ?」
「お経を」
「あげてください」おばちゃんたちが真顔で詰め寄ってくる。
読めるわけがない。見渡せば皆すがるような目でこちらを見ている。