小説

『アカマツの下で』茶飲み蛙(『つらしくらし』(岡山県))

5年ぶりの実家への帰路。昔と変わらず一番に出迎えてくれたのはアカマツだ。
去年の豪雨のせいだろうか、折れた枝の跡に木肌が晒されて痛々しい。
それでも、残された枝から生える葉の一本一本が鋭く、凛としている。
アカマツは苦難に耐え、今ここに立っている。
それに比べて俺は、たった5年で地元に帰ってきてしまった。
大学卒業後、東京にある大手食品メーカーに就職し、地元岡山を離れた。
懸命に働いたおかげで上司にも認められ、来年には昇進の予定だった。

ニュース沙汰になるようなミスをしでかしたのは、3ヶ月前のことだった。
上司や同僚は手のひらを返したように冷たくなり、俺は居場所を失ってしまった。
そんな状況から逃げるように、毎日酒を浴びるほど飲んだ。元来酒に弱かったこともあり、すぐに体調を崩した。それでも、酒を辞めることはできなかった。
不摂生な生活を続けるうちに、今度は不眠症に陥った。そして、転げるようにうつ病になり、結局会社を辞めた。
元をたどれば自分のミスが原因だったこともあり、この困窮について周囲に相談することはできなかった。無論、両親にも。
しかし、諸々の通院費用により貯金が底をついたことで、帰郷せざるを得なくなったのだ。

「吉田?久しぶり。」
背後から声をかけてきたのは幼馴染の藤原だ。嫌なタイミングで出くわしてしまった。
「ああ、久しぶり。」
「なんだ。帰っているなら言えよ。」
「いや。急だったから。」
「あ、そうだ、今度同窓会あるからお前も来いよ。後で日程連絡するよ。じゃあ、またな。」

強引な藤原の勧誘に流されるまま日程を連絡し、当日を迎えた。
翌週末、高島屋の裏にあるチェーンの居酒屋で同窓会が始まった。参加者は10名といったところか。見知ったメンバーばかりだが地元で定期的な付き合いがあるのか、若干内輪的な話題が続き、どこか疎外感すら覚える。所在なく口に運んだ全国変わらぬ薄っぺらなコース料理の味わいが会社の飲み会を想起させる。苦々しい。
「吉田君、めっちゃ久しぶりじゃな。今何の仕事しとるん?」
声をかけてきたのは元カノの親友という微妙な間柄の中村だった。
「あぁ、久しぶり。東京の朝日食品だよ。」
(しまった)
つい反射的に答えてしまった。

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