小説

『Gの恩返し』まいずみスミノフ(『鶴の恩返し』)

「わたしはあの時の」
「……」
「――あの時のGです」

  ×  ×  ×

「ぎゃあ」という彼女の叫び声がキッチンから聞こえてきたのでおれは取るものもとりあえず駆けつけた。
 彼女は背伸びをしながら逆さまの茶碗を壁に押さえつけていた。その手は小刻みに震え顔面は蒼白、今にも泣き出しそうだ。
「Gが!」
「G?」
「Gが!!」
「G…」
 Gか…。
 彼女が天下の虫嫌いであることは付き合う前から心得ている。それがGともなれば親の仇に等しい。
「ジェットは!?」
 Gジェット。
 しかしここは男の一人暮らし。ジェット類いはない。という意味を込めて肩をすくめる。
 彼女は温度差のあるおれの反応に腹を立てたのかキッと睨みつけていう。
「ガムテ!」
 どうでもいいが発言が全て単語だ…。パニックで言語中枢がいかれちまったらしい。
 おれは靴箱からガムテープを取り出すと彼女に渡…そうとして、怒られる未来を見た。べりべりと何枚か切り取って渡す。
 何をするのかと見ていたら彼女はガムテープを使って器用にお椀を壁に貼り付けた。
「…え、これどうするの?」
「知らない!」
 おれだって知らない。
 彼女は困惑するおれを押しのけてやおら荷物をまとめ始めた。
「Gと一夜を共にするなんて正気の沙汰じゃない!」
「いや今買ってくるよ、ジェット」
「ジェットが売ってなかったらどうするの!? ジェットが効かなかったらどうするの!? ジェットを噴射する瞬間に飛び出してきたらどうするの!?」
「そんなこと言ってたらアレ一生あのままじゃん!」
「一生あのままよ! …もうこの家はダメ。…焼き払うしかない」
 …目が本気だった。
 最終的に彼女は
「わたしとGどっちが大切なの!?」

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