『ダニー・ボーイ』
森な子
(『ダニー・ボーイ』)
「おいしかた、じゃなくて、おいしかった、ね」。鈴は悪意のない瞳でそう言った。親が離婚し、父と日本へやってきたダニエルことダンは、上手く言葉の伝わらない生活に憂鬱を抱えていた。そんな時、周囲の人達と違い、自分を特別扱いしない大人びた少女、鈴と出会い、彼の日常は少しずつ変わってゆく。
『拝啓赤ずきんさん』
熊田健大朗
(『赤ずきんちゃん』)
祖母が死んだ。どうしようもない感情に浸る男は祖母の家の棚から数枚の手紙を見つける。差出人は「赤ずきんちゃん」と名乗る女性だった。彼女が綴る「生きてみた甲斐がありました」という言葉と、彼女の過ごすたわいもない日常に興味を持った男は祖母になりすまし彼女に最後の手紙を書いた。
『きつね』
森な子
(『民話:妖狐』)
ヨーコは人に化けるのが得意な狐。ある日、自分の寝床に帰ると、泥だらけのランドセルを抱えた少女がしくしく泣いていた。その少女は歩という名前で、新しい家族やクラスに馴染めず、独りぼっちの寂しい子供だった。
『パーマネント・パッパラパー』
泉鈍
(『飛行機から墜ちるまで』吉行エイスケ『オイディプース』)
日夜、仕事であちこちピンポン玉みたいにブッ飛ばされ続けているおれは、もうありとあらゆることにウンザリきていた。今日もビジホ、明日もビジホ、え、明後日も? あ、その先も……。こんな状況から退避するには上質の眠りか、アルコホールくらいしかない! ……バカげてる。実に、ホント、いやマジで。
『エンドレスなメロス』
もりまりこ
(『走れメロス』)
ディオニスは怒ってた。めっちゃ怒ってた。怒りながら走ってた。走る言うたらメロスちゃうのん?って。ディオニスが罷免されたあと、民に推されて王になったのはメロスやった。俺ディオニスは今メロスに走らされてる。人を信じられへんのはそんなに罪なんやろか?って。胸ひゅーひゅー言わせて走ってる。
『桃のアフターケア』
島田悠子
(『桃太郎』)
鬼退治が終わり、パラサイトシングルと化していた桃太郎のもとに、幼い小鬼たちが親の仇討ちにやって来た。鬼とはいえ、いたいけな子供たちを退治できず、桃太郎は鬼ごっこでの勝負を提案する。桃太郎は負け知らず。小鬼たちは雪辱を晴らしに毎日通ってくる。はたから見ると、それはまるで……。
『ロミオとロミオ』
鷹村仁
(『ロミオとジュリエット』)
輪島には好きな人がいる。それは同じクラスの龍人(りゅうと)。とてもチャーミングで格好いい男の子。女子からも人気があり、当然たくさんの女子から言い寄られている。告白しなければいつしか龍人は誰かにとられてしまう。しかし輪島には大きな問題があった。それは自分は男性だということ。
『あの日の情景』
太田純平
(『黄金風景』)
大晦日。久しぶりに実家に帰ると、近所に大型スーパーが出来ていた。見物がてら買い物に出掛けた私は、そこで偶然、中学時代の同級生と再会した。中学時代、善か悪かで大別すれば、確実に悪の幹部クラスであった私は、その再会をきっかけに、ある、イジメていた女の子の事を思い出す。