小説

『あの日の情景』太田純平(『黄金風景』)

 大晦日。久しぶりに実家に帰ると、近所に大型スーパーが出来ていた。
 母親が「なんか好きなもん買ってきたら?」と言って五千円を渡すので、私は見物がてらそのスーパーに足を運んだ。
 中に入ってまず目に飛び込んで来たのは、ずらりと並んだ野菜、果物、そして人、人、人!
 大晦日特有の駆け込み需要か、オープン間もない大型店だからか、ショッピングカートがすれ違うのもやっとな程の激混みである。
 中学時代、この辺りは元々空き地であった。
 大学時代、一階がコンビニ、二階がビリヤード場の小さな建物が建った。
 三十一歳、はあ。大型スーパーですか。
 私はパーっと高い牛肉でも買うつもりでいたが、あまりの人混みにすっかり物欲も失せ、買い物カゴを元の場所に戻そうとした、その時である。
「山本!」
 誰かに名前を呼ばれたので振り返ると、そこにはなんと中学時代の同級生、武田がいた。それも、ここのスーパーの制服を着て――。
「た、武田?」
「そう! 俺!」
「武田じゃん。なにやってんの」
「なにって俺ここの社員! 精肉担当!」
「マジか」
「やっぱ同窓会みたいになるんだね」
「同窓会?」
「ほら正月だからさ、みんな地元帰って来て。さっきから何人も会ってるんだよ、中学時代のやつ。工藤とか、佐野とか。そうだ、今ちょうど下川が来ててさ」
「下川?」
「ああ。ちょっと呼んで来るわ。多分まだ売り場の方に――」
「いいイイ」
「そう? じゃあ……俺仕事あるから」
「おう。頑張れよ」
「ウイ」
 武田はそう返事をすると、客間を縫って売り場の方へ消えた。
 ああ。武田。中学の頃は小柄ですばしっこいイメージだったけど、今じゃすっかり太っちゃって――。
 まぁ別に学生時代、特に武田と仲が良かったわけではない。むしろ靴下を履かず、上履きを素足に直接履く武田の事を不潔呼ばわりし、イジメていた時もあった。
 私は中学時代、善か悪かで大別すれば、確実に悪の幹部クラスであった。

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