もうずっと父親のことが頭から離れなかった。せめてもと、それを糧に何かを作ろうとしてみたけれどなんにもできやしない。かろうじて手に入れられるものといえば、適当な会話。適当な恋。適当な愛。キス、キス、キス、キス。その繰り返し。なんだかダンサーの反復練習に似ているな。
久々にバッドに落っこちたおれはちっともうまく眠ることができなかった。愛情不足。慢性硬膜下血腫のように、そいつはジワリジワリとおれの脳を圧迫した。
とっとと悪い考えを頭の中から追い出さないと……。
ところで無償の愛ってやつがどうしても見たかった。
何もかもがよそよそしく感じる時はない?
おれにはある。お気に入りの小説が一ページとして読めない時。好きな音楽たちが五秒と聴いていられないような時。そんな時って、いったいどうすりゃいいんだろうな。
皆はどうしてる?
目を閉じて、グッスリ眠ればいいって?
でも、眠れないんだ。
日中は地獄だ。浅い睡眠と覚醒の繰り返し。一つとしてタスクは進まず、目の前に狂ったように積み上がっていく様を漫然と眺めるばかり。コイツを根元から蹴っ飛ばすことができたらどんなにラクだろう。
「S社のT様からお電話が」
いないと伝えておいて。
「おい、アレどうなってる?」
どうにもなってねえよ。
「出張だ。コレ、新幹線の切符ね」
ファック!
おれの職場にはボタン一つで切符が飛び出る素敵なマシンがフロアのど真ん中にドカンと置かれている。
ボスがそいつを押せばカタカタチーン!
一時間後にはおれは愛知にいる羽目になる。三時間後には兵庫。六時間後には福岡だ(新幹線で東京から福岡まで行くかって? 行くんだ。なぜなら、みんな、アホだから)。
こうも出張だらけだと自分が移動するためだけに生まれてきたんじゃないかって気がしてくる。おれは無言で切符を受け取るとボスの背をにらみつける。悪態を吐くのはグッとこらえよう。じゃないと次はどこへぶっ飛ばされるかわかったもんじゃないからな。
ーータイクーン・ラクーン・タイクツホテル。
そういうわけで、おれは神戸のしょっぱい馬鹿げた名前のビジネスホテルにいた。