だがどうだ?
何度フロントベルを押しても誰も出て来やしない。虚しいチーンという音が繰り返されるだけだ。誰もいないフロントにチーン、チーン、チーン!
この音で一曲こさえてやろうか。曲名は「クソッタレ・ビジネス・ホテル」だ。ジョンのファックって音声をサンプリングして、チーン、ファック、チーン、ファック、チーン、チーン、ファックだけで構成してやる。
アホか……。
目を閉じる。
目を開く。断続的な耳鳴りがしていると思ったら、どうやら誰かが同じフロアでディストーションギターをかき鳴らしているみたいだった。顔をしかめる。頭が痛い。また飲みすぎたらしい。腕時計を見やれば、時刻は深夜三時三十三分。隣にいた女に聞けば、ここはどこかの地下のクラブハウスで、薄暗い中、皆この音にウットリしているみたいだった。正気か?
尋ねた女は「頭大丈夫?」って目でおれを一瞥すると、そそくさと傍を離れて行った。
どうやら、この場でおかしいのはおれだけみたいだった。
ーーギュインギュインギュインギュインギュイーン、ギュイーン! ガー、キーン!
アルコール漬けと睡眠不足の脳味噌は当然コイツを拒否。いや、シラフでもこりゃ無理だな。どうしてここにいるんだっけか。理由はわからない。どうせいつものように流れに身を任せたんだ。それしかない。やかましいギターをかき鳴らしていたバンドがようやくステージから消えたと思ったら、合間のDJすら轟音。思わず笑っちまった。
ひょっとして、これ、轟音マニアの集いなのか?
頼むから誰か教えておくれよ。
突然、二十歳くらいの若い女に肩を叩かれた。茶髪で毛先がふわっとしたロング。目ん玉にカラコンを入れた、今時の女の子って感じのヤツ。
「どう、楽しんでる?」と名前も知らない女。
「ああ、サイコーだね! でも、おれ、もう行かなくちゃ……」
眠れないけど……。バーイ。どうか二度と会いませんように。
でもそう上手くはいかないんだよな。わかってる。女のクリッとした目が釣り上がる。口をへの字に結んで、マズイと思う暇もなくおれの腕をきつく掴むと、そのちっこい身体のどこにあるんだってくらいすごい力でフロア中を引きずりまわし始めた。
ああ、スーツに皺がつく。女の手にしたドリンクがかかる。あとでフロントへ行ってクリーニングに出さなくちゃ……。
「ヒドイ、あなたが誘ったんでしょう? ねえ、友達がたくさんできたの、紹介してあげる!」