『イントロスペクション』
泉鈍
(『魔術』芥川龍之介)
深夜。自分の家で目覚めたぼくは、隣に恋人の姿が見当たらないことに気がつく。たしか昨夜は喧嘩をして、コッソリ家を飛び出して……それから? 頭は靄がかかったようでいて、いま一つ記憶がハッキリとしない。冷たい水で顔を洗い、なんとなしに冷蔵庫を開けてみると……。
『ぶっちぎりで勝ちますから、マジで』
鷹村仁
(『ウサギと亀』)
好きで好きでしょうがない女子の好きな人を知る。それは自分ではなく、中学から友人の事を好きだという。悔しくてしょうがないので、「彼女の好意を受け入れるな」と無茶なお願いをする。そして友人はお願いを聞く代わりに“勝負”を持ちかけてきた。
『蛇が睨む』
篠崎フクシ
(『蛇』)
高校生の俺は、雨の降りしきる中、友人のWと学校に向かって歩いていた。Wが何かを成し遂げようとするのを、俺は最後まで見守るつもりだった。しかし、事態は思わぬ方向に向かっていく……。
『いつかいた鳥』
森な子
(『青い鳥』)
叔母である菜穂ちゃんの家には空の鳥籠が置いてある。母が塀の中に行ってしまい、身寄りのなくなったこはるは、菜穂ちゃんの家でのんびり暮らす高校生。ある日、困り顔で赤ん坊をあやす、自分と同い年くらいの男の子、ミチルに出会い、こはるは本当に大切なことは何か、考えるようになる。
『ウイメンの水死体』
紗々井十代
(『ブレーメンの音楽隊』)
大学生活にして八回目の失恋を経験した馬兎みさきは、酷く落ち込んだ末に自殺を決意する。「きっと海で死んだら素敵だわ。死ぬ間際に海が見えるんだもの」やがて集まる四人の女子大生。それぞれに悩みを抱えた彼女達は仲間となり、自殺の計画を企てる。
『その恋がブージャムだったなら』
紗々井十代
(『スナーク狩り』)
「もしもその恋がブージャムだったなら、あなたはきっと消え失せてしまう」
占い師からそう告げられた僕は、ちっとも意味が分からなくて気にも留めなかった。それなのに。日常の中でその言葉が繰り返される。不動産屋が、後輩が。会社の同僚が。同じ言葉を口にする。崩壊する日常のナンセンスな軌跡。
『手と指、心』
森な子
(『手袋を買いに』)
つばめくんはホモらしい。クラスの男子がそう騒いでいた。ある日、放課後の理科準備室で、憂鬱そうな顔で蹲るつばめくんを見つけたのんびり屋の女子高生、桃井さんは、彼のどっしりとした雰囲気をなんとなく気に入り、次第に打ち解け仲良くなっていく。しかし、ばめくんには大きな悩みがあった。