「妹と母親を犯すか、兄の両腕と両足を切り落とすかどちらかを選べ」
そう言われて13歳の少年、カッソは泣きながら兄を殺した。
カッソの小さな村は武装集団に襲われたのだった。
カッソの村は、山岳地帯で小さな畑を耕し、牛や羊を飼い、時折町に出かけてバターを売り、その金でこまごました金物などを買う。時に甘い菓子を二つ三つ買って、兄はその菓子をカッソとちいさな妹に全て分け与えてくれた。
とても小さな幸せだった。それしか知らなかった。カッソはそれで十分だった。
遠くの町で異教徒を敵対視する集団が武装し、多くの人が惨殺されているという噂をきいたのはつい最近のことだった。
カッソは「武装集団」と言われてもピンとこなかったし、町まで徒歩で一週間もかかるカッソの村に、何が起こるかなど想像できなかった。
だがトラックやジープが土煙を上げてフルスピードでガタガタと村にやってきたとき、カッソが、いや、村の誰もが想像できないことが瞬時に起こった。
老人は射殺され、成人男性は全員両手足を切り落とされてから殺され、村の女性は一人残らず連れ去られた。カッソや小さな男子は女性らとは別のトラックに乗せられた。身内を犯すことができた男はいなかった。
村ごと焼かれて灰になり空へ昇っていく兄たちの魂を目に焼き付けようと、カッソは激しく揺れるトラックから、必死にその煙を目で追った。
「犯されるってどういうことだろう」
カッソよりちいさな少年がカッソに聞いてきた。カッソはその質問にうまく答えられなかった。
「お母さんもお姉さんも妹も犯されるんだって。ねえそれは幸せ?それともつらいことなの?」
カッソは家族のことを、幸せな村のことを思い出さないようにトラックの轍を見つめて心を殺した。
「つらいことだよ」
カッソといつも川で魚釣りをしていた友達が答えた。カッソは友達の手を握った。友達も力強く握り返してきた。
ガグン!ガウウン!
カッソが見つめていた轍からトラックの車輪が外れ、トラックは横転した。
その強い衝撃に、少年たちは車外へと投げ出された。
先ほどカッソに質問してきた少年は、事故の衝撃で死んだらしい。首があらぬ方向に曲がり、白目を向いていた。
「うわああ!」
生き残った少年の一人が駆けだした。それを皮切りに、少年が次々と走り出した。カッソも立ち上がり、駆けだそうと友達の手を引っ張った。