小説

『カッソは神になる』美日(『桃太郎』『浦島太郎』)

 カッソは、あとは自らをユキヒョウに投げ出すだけだと思った。
 それで良いと思った。もうライフルを担いで旅をする気持ちは消えていた。

 だが、ユキヒョウは突然、穴を出ていった。
 体が大きくなり、いつのまにか洞穴を登ることができるようになっていたのだ。
 突然のお別れにカッソは泣いた。もう生きる希望は何もなくなった。だが死ぬ勇気もわき上がってこなかった。
 そうして泣きくれていると、ユキヒョウは鳥を捕ってカッソのもとへと届けてくれた。
 それからユキヒョウは洞穴から毎日狩りに出かけ、カッソに食べ物を届けるようになった。食べた後は、一緒に眠った。
 カッソとユキヒョウは健康を取り戻した。

 とある猟師がユキヒョウを追っていくと、洞穴に姿を消す瞬間を見た。
 猟師はそこで、カッソを発見した。
 カッソは村人に助けられ、ついに穴を出ることが出来た。

 だがカッソは洞穴から遠くに行くことが出来なかった。
 ユキヒョウが戻ってくると思ったのだ。
 ユキヒョウは遠くからカッソを見つめているのだろうか。
 カッソのもとには戻ってきてくれなかった。

 カッソの話は、村の人の心を捉えた。
 遠い村から復讐の炎を燃やし、ライフルだけを背負い、導かれた神の山で、神の使者であるユキヒョウと生活を共にし、こうして生きながらえている様は、神そのものだった。
 カッソはユキヒョウとの愛情から、愛情を取り戻した話をすると、それは神と交わった人の言葉になった。

 カッソはユキヒョウを探す旅に出ようと決意し、そのことを村人に告げた。
 すると村人はカッソについて行くと言い出した。
 カッソは、ライフルのかわりに信頼する人たちとともに、兄の名を持つユキヒョウを探す旅に出た。
 そうしてカッソに従う信者は増えていき……。
 カッソの世界は、広がっていった。

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