こんなことになるのなら、枝など折らねばよかった……。
息子に背負われての帰り道、折れた枝を見るたびにそう思う。
後悔を何度繰り返しても、折れた枝は戻らない。
しかし、息子は戻っていく。
わしをその背に乗せて……。
大きくなった。
たくましくなった。
あらためてそう思う。
「息子や、まだ間に合う。はよう、わしを戻しておくれ……」
もう一度、もう一度息子に願う。
「母さん……。何度も言わせるな。きっと何とかしてみせる。少し不自由かもしれないが、何とかして見せるから。きっと何とかして見せるから……」
背中越しに、息子の決意が伝わってきた。
なんていい息子に育ったのだろう。
なんてこの息子に謝ればよいのだろうか……。
このままでは、この子を村一番の愚か者にしてしまう。
他でもない、この母の手によって。
足腰が丈夫であったなら、今すぐ降りてこの山に身を隠すものを……。
この子はまだ考えていない。
恐れを抱いた人が、どんな行動をとるのかを。
この子にはわからないのだ。
この子は優しすぎた……。
そもそも、このしきたりには、理由がある。
村を守るための、苦渋の決断。
わしの婆さんも、そのまた婆さんも、みんな村のために、この山に連れてこられている。
そうしなければ、村全体が危険になる。
役に立たない者を、世話している余裕などないのだ。