少なくとも、今はそうなのだ。
世話をした分、農作業が減る。
農作業が減れば、作物が育たない。
作物が育たなければ、年貢が払えない。
年貢が払えなければ、自分たちが食うものもなくなる。
食う物が無くなれば、動けなくなる。
動けなくなれば……。
行きつく先は悲劇だった。
だから、先人たちは皆、心を鬼にしてきたのだ。
捨てられる方も、仏にして受け入れたのだ。
この村の人は、そうして今まで、細々と生きてきたのだ。
そのことを聞かせても、この子は頑なに言うことを聞かなかった。
本当に愚かなことをしてしまった。
折れている枝を見ながら、後悔だけがわしの心の住人となっていた。
このまま帰ったとしても、先は見えている。
息子は頑張るだろう。
でも、村が許すはずがない。
わしだけ特別にはできるはずがない。
いつかはわしをここにつれてこなければならない。
早いか遅いかの違いだ。
この子には酷な選択が待っている。
この子に決断をさせてしまう。
2度目の決断をさせてしまう。
私を捨てるという決断。
心を鬼にするという決断を。
一度目は、村の掟というものがある。
だから、心を鬼にしても、人として暮らしていける。
しかし、二度目はそうはいかない。
二度目に捨てる決断は、掟ではなく、自らの意志になってしまう。
もしくは、誰かのせいにしてしまう。
こんな優しい子に、そんな決断をさせてしまうとは……。
私はなんて愚かで、罪深いのだろうか……。
ただ、迷わないようにと願っただけが、かえって迷わせてしまった。
この子は私を連れて帰るだろう。