二人はほぼ同時に振り返ると、そこには綺麗な白猫のストラップを右手にぶら下げた信二が仁王立ちしていた。
そんなことはあるはずがない。なぜなら彼女のストラップは海斗が持っているのだから。
事実、信二が持っているストラップは話を聞いて、新しく買ったものだ。
しかし、今ここで『信二の持っているのは偽物で、本物は僕が持っている』なんて言える勇気は海斗にはなかった。
今そのことを指摘したら、二人きりの時間が終わってしまうのはもちろん、ずっと隠し持っていたことまでバレてしまうと、海斗は思っていた。
海斗が一人で葛藤している間にも信二と羽衣のやり取りは続いている。
「この前は断られたけど、やっぱり俺もチカラになってあげたくてさ」
「うん、鈴木くんありがとう」
「へへっ」
羽衣からお礼を言われ、信二は照れくさそうに頬をかく。
それから羽衣は海斗と信二を見て、
「二人とも手伝ってくれてありがとうっ」
と、言ってどこか硬い笑顔を浮かべそのまま家へと帰っていった。
その様子を海斗は信二と二人で見送る。
だけど海斗の心の中はとても穏やかではなかった。
二人きりになれるチャンスを潰されただけではなく、彼女から真っ先に受けるはずのお礼さえも奪われてしまったのだから。
もちろんそのことは信二も自覚していて、
「ふんっ、お前如きが天野と二人きりなんて一万光年早いんだよ」
などと使い方の間違った捨て台詞を吐いて、羽衣ちゃんとはまた別の出入り口から公園を去っていった。
一人残された僕は、とぼとぼと歩きながら滑り台の近くに置いたランドセルを取りに行く。
それからランドセルを開け、ストラップを取り出す。
これを持っていればずっと二人きりになれる。そう思っていたのに、現実はそんなに甘くはなかった。